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スレッドNo.6025

熱帯、夜を超える  荒木章太郎

熱帯夜で
自然と無意識が溶ける
暑さで凍りついたからだを
朝が溶かす

鳥の囀ずりが取り残した
合間をぬって蝉が泣く
先細って消える、
夢と呼ばれていた声の残響のようだ

室外機の音を止めて窓を開ける
嫉妬や裏切りが集まって
憤怒となった感情が
ベランダの鉢のように
干からびていた

昨晩は恥ずかしく
本能のまま、傲慢と強欲で
君を傷つけたかもしれない
そんなことばかり、何百年も繰り返してきた

虫かごの中で死んでいった記憶に
なぜ、人はカブトムシに惹かれるのか
角はとっくにへし折られているのに
蝉の方が尊いのか
なぜ、尊いとかを考えるのか
ただ、生きとし生けるものであるだけで
十分に奇跡なのに

ああ、人だけが夢を見るのだろうか
傲慢な夏日に抵抗して
人工芝を敷き詰めたり
コンクリートを流し込んだり
科学のすいを集めた結果
色欲と暴食が夏の夜を
赤々と、熱もなく照らし続ける

熱帯夜だ
なぜ、人は熱帯魚に憧れるのか
先人は、何事も二つに
色分けしようとしたから
争って、弾かれて、取り込まれて
刈り取られて、土地は先細っていく
仕方なく、上に積み上げていくしかなかった

俺のベランダでひっくり返っている
夏の骸を埋める
土に──
帰る土がない
ここを耕して俺が
土になるしかない

編集・削除(編集済: 2025年08月05日 08:02)

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