寡黙な管理人 温泉郷
残された空間
棚の上の放置された
組み上がった木製の
恐竜と旧式戦闘機
埃が積もっている
孫が組み立てたのだろうか
乾いた褐色の植物
カーネーション
娘が贈ったのだろうか
麻痺した空気
テーブルの上に
跳ねるモノ
小さな縞模様のクモ
巣をつくらないクモ
アダンソンハエトリ
この空間は
これから
浄められる
浄められた
埃のないこの空間を
「所有者」は誰かに貸して
誰かが「占有」するのだろう
空間の所有?
空間は誰かのために
区切られる
でも
閉じられた空間の中から
人がいなくなると
所有はあっても占有が消える
恐竜も戦闘機も埃も空気も
そこにあるだけ…
アダンソンハエトリは
その誰も占有しない空間の
孤独な管理人となって
所有者の代わりに
ダニやら埃やらを食べて
跳ねている
カーテンと窓を開けて
この空間の寡黙な管理人に
せめてもの
所有も占有もない
夏の風と陽光を
贈ることにしよう