嗤うしゃれこうべ 上原有栖
漆塗りのしゃれこうべ
いったい いつの頃からあるのやら
我が家の物置の片隅に
ひっそり目立たぬ暗がりに
小箱に入れて仕舞って在る
これが誰の骨なのか
どんな由来の物なのか
身内の誰も知らぬのだけど
子どもが十を迎えたその日に必ず
親は箱の鍵を開けて子に見せることになる
そんな慣わしがあった
私もかつて「それ」を見た
暫くは悪夢にうなされた
落窪んだ鼻腔と眼窩
何も無い空間は「恐怖」そのものだった
もう一つ怖い話をしよう
このしゃれこうべは 偶に嗤う
ケタケタ ケタケタ 揺れながら
それに合わせて小箱も揺れる
コトコト コトコト 音が鳴る
不気味だろう
だからと言って我が家に不幸が降りかかる
なんて事は一度もなかった
誰かが怪我をすることも 家が火事になることも
今まで一度も起きたことがなかった
ただ しゃれこうべが嗤うと
この村の中で誰かが 近いうちに 死ぬ
だから物置から音がしたら
我が家では屋根の上に
黒い幟ををたてる
風に長い幟がたなびくと
長閑な村の空気がピーンと張り詰めるのが分かった
それがしゃれこうべが嗤った合図なんだ
不気味で不思議な話だろう