夏休みの記憶 aristotles200
田舎育ち、家の横に川の上流があった
夏場はよく川で遊ぶ
上流でも、堰の深みは3mはある
麦わら帽子を被り、首にはタオル
釣り道具とゴム付きの銛、バケツを持って
ゴムサンダルで真夏の農道を一人歩く
人の来ない
藪の向こうに自分だけの場所がある
釣りに飽きれば、川に潜り銛を突く
水は夏場でも冷たく
寒くなれば、大きな石の上で昼寝する
そんな夏休みを過ごしていた
堰の上下を挟んで、自分の王国である
河童のように泳ぐ
流れの速い、遅いところ
身体が沈む淵や、魚のいるところ
一日中いても飽きない
夕方、釣果をバケツに入れて帰宅する
ハヤは、母が塩焼きにしてくれた
水が透き通っているので
淵の魚が丸見えで、よく潜っていた
堰の真下にある深い淵は
上から飛び込んで、底まで泳ぎ
下流に向かって、潜水泳ぎで水面に上がる
立ち入っては危険な場所もある
川の中ほど、突然深くなり流れも緩い
泳いでいても身体が沈む
淵の下のように、川底に潜水すれば
もはや水面には上がれない
青みがかった、深く
暗い水の色をした川底は
子ども心にも何処か、恐ろしさを覚えた
足ヒレとシュノーケル
これらを手に入れてから
文字通り、河童と化したのだ
それでも
急流に入る愚は一度もない
美しい川と、一つになっていた
遠野物語、ゲゲゲの鬼太郎、河童の三平
日本の妖怪を
身近に感じられる時間を過ごしたように思う
✳
歴史博物館の資料によれば
この辺りは昔から、大きな淵があり
河童が住んでいたらしい
たびたび
人や馬が、川底に引きずり込まれていたとか
そんな伝承があると知ったのは
大人になってから
さもありなん、と思った