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スレッドNo.6052

不穏  荒木章太郎

不穏は足音を立てずにやってくる
都市伝説の看板掲げて
夕暮れの路地にセピア色の匂いを漂わせ
なぜか懐かしさで油断させる
それは肉食獣の口の形をした依存物質
人の形に入り込み骨や血を似せてくる

俺は牛タン、レバ刺し、あん肝、白子
夜ごと命を呑み込んで
酒を流し込み唾を飛ばして議論した
歴史に疲れ果て、切り取り、要約、早送り
思考をどこかへ預け
考えることをやめてしまった

——その瞬間、俺はもう死んでいたのかもしれない

かつて見た頭が大きく手足が細い宇宙人
いま画面を覗く子どもに重なり
柔らかな言葉ばかりを噛まずに飲み込み
顎は細く歯は溶けて
走る力を失っていく

それは鏡に映る未来の影か
頭の中にやつらは忍び込み
脳を舐めて食らう
それでも俺は「考えるより検索」を選び
思想的な死を想像できない

だからーーー

宇宙から見れば幽霊の宴
地上から見れば侵略の足音
不穏は疑心暗鬼となり
互いの肉を食い合う

はるか昔から人類は
戦争をやめられない
八十年の平和は
成長を止めたかわりに
足音を遠ざけた
それでも耳の奥では
乾いた靴底の音が
途切れることはない

そして俺は宴の締めに食べる
麺類がやめられない
姿を消した屋台の代わりに
二十四時間灯る看板の下で
先が見えない湯気に顔を突っ込み
敗北をやさしく煮込んだスープに
先伸ばしにのびる麺を啜り朝を迎えた

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