感想と評 8/8~8/11 ご投稿分 三浦志郎 8/18
1 相野零次さん 「恋が終わるとき」 8/8
恋を修飾する形容詞句ならびに副詞句、そのユニークさと面白さと効果の高さは驚くばかりです。
けっこう考えられたと思います。これは佳作です。季節の絡め方もいいですね。静かな情熱と明るさと祝福を感じます。
それらもさることながら、この詩の主なテーマは「恋→愛」への継続的移動にあります。ここでは愛は、より聖的で気高いものと把握されそうです。タイトルは一見悲しいもののようですが、全く逆で、そこも面白い点です。「恋の役目が終わり、愛へと受け継がれていく」その大きな世界のことです。その繋がり方も新鮮です。「ここに地終わり、空始まる」―まるで、そんな雰囲気さえ感じさせます。
2 aristotles200さん 「ネムリブカの世界」 8/8 初めてなので、感想のみ書かせて頂きます。
タイトルが聞き慣れない名詞だったので、調べたところ、サメの一種なのですね。ちょっと奇妙に思ったのは、ここでは凶悪・性悪な生き物として描かれています。夜行性なのは事実のようですが、体も小さく、さほど悪いサメではない。むしろ温厚なようです。もともと動物には善悪はありません。自分より強いもの、自分にとって不利な時、逃げる。自分より弱いもの、自分にとって有利な時、攻撃する。当然です。生き残る為です。善悪ではない。こういった動物の性向の比喩先が人間だった場合、これは論難されます。従ってこの詩の本領は「~のような集団がいる」以降と言えるでしょう。ひと言で言えば「卑怯、不正義」といったところでしょう。僕は政治性の薄い人間で、この詩が具体的に何のことを差しているかはわかりませんが、歴史に照らす時、政治史の暗部とは、大体こんな症状ではないかと思えて来ます。「人間の良心」以降、「強いもの」とありますが、これは、「真に強いもの=正義」と把握しております。また書いてみてください。
アフターアワーズ。
すでに、かなり書かれているかた。この稿を書くにあたり、過去作を一通り読ませて頂きました。
書けるかたで、発想力・表現力もあると思います。硬軟の組み合わせ方も面白いです。思想・哲学の素養がおありのようで、詩において有力な後ろ盾になるでしょう。ところで、これは一般論ですが、そういった素養のかたの作には、ごく稀に、一種の臭みというかアクのようなものが散見されます。そういったものを上手く中和して、バランスを取って行かれればいいと思っています。
3 上原有栖さん 「あやめも知らぬ恋」 8/8
まずは解説ありがとうございます。大変助かります。
高校生活、とりわけ、ホームルームの雰囲気がよく出ています。席の感じ、夏休み直前のややざわついた雰囲気。極め付きはやはり「僕」の「君」への思い。心も体も火照ってる感じです。
6連は面白いですね。「先ずは お友達から始めましょう」―ここ、実にいいですよね。
引用の和歌は、古文の授業か何かで習ったものでしょうね。今どきの恋愛詩に、こういった古風なものが引用されたのは、かえって新鮮で面白くユニークさを感じています。しかも、歌の解釈と「僕」のフィーリングが見事に重なっていますね。文体も正直さがあって好感が持てます。佳作です。
アフターアワーズ。
相野さんも上原さんも大変ユニークな恋愛詩でした。嬉しさ、優しさも伝わってきます。
4 こすもすさん 「ロボットの街」 8/8
SFですね。あり得ないことながら、人間社会の暗い構図や論理を暗示しているように取れなくもない。ファシズムの原理がこれに近いでしょうね。ちょっとヘンな評になります。おそらく批判も多いだろう私見です。「詩とはひとつの心情・背景・場面・思考を結論的に切り取るべきものであって、その原因・経過・エピソード・結末など全て書く必要なし。それは小説の仕事」(そう考えると、今まで僕の出した本は全て詩ではないことになるのですが)。まあ、程度問題、ケースバイケースということはあるのですが。
そんな風に考えると、前回のこすもすさんへの僕の評も多少の修正が加えられそうなんです。本作を考える時、上記自説に照らすと、この詩はこれでいいと思います。ただ前半の現象面にもう少し肉付けは欲しい気はします。ひとつでいいです。事例的なことです。肉付けの方法として、
①ALL SFにするか? ②現実に近似の仮定にするか? なんですが、「まるでロボット」(つまり人間)とあるので、チョイスは②でしょうね。評価は佳作一歩前とします。
5 樺里ゆうさん 「二十五歳になった夏」 8/9
自分は一度しか結婚したことがないので、現代の結婚および縁談事情が全くわからないのですが、
今も詩にあるような事情があるのには、ちょっと驚きました。それとも現代の人は結婚について淡白になっているので、案外、こういった事例も復活しているのかもしれない。話の内容はこの詩の通り、額面通りに把握します。生まれ変わりは凄いものがありますねえ。僕の最も受け取りたいところは、この縁談話を契機としながらも、この詩は仕事のあり方も含めた自己の生き方、その意志確認であるという点です。「新卒から三年続けてきて」この年月は仕事がノッて来た頃合いでしょう。母の言う「話があるうちが花よ/いつまでその生活を続けられるかはわからないでしょ」これも、まあ、年上らしい心理で、一面、真理なんですがね。しかし今の結論はご本人の意志です。これは感想だけにしておきましょう。
6 温泉郷さん 「寡黙な管理人」 8/10
このタイトルの主がアダンソンハエトリなんですね。なんとなく見たことはありそうですが、そういう名前とは知りませんでした。益虫のようですね。その仕草などからマニアがいそうです。ここで面白いのは「恐竜と旧式戦闘機」がこの詩においての主要登場物、この詩の主旨を支えている点です。これら物品の主―つまり占有主が非在・不在・不明―そこから来る作者にとっての空虚。無価値化した単なる物体。そんな空虚な空間を代行管理するアダンソンハエトリの寡黙・孤独。そこに温泉郷さんの憐憫、同情がありそうです。詩文の運び方がすごくいいですね。詩に充分慣れたかたです。ただ、感触として、「所有と占有」の関係が今ひとつピンときませんでした。あと、(埃はあるのかな、ないのかな?) 佳作半歩前で。
7 松本福広さん 「新人指導マニュアル」 8/10
すでに現役を退いて久しい評者にとっては、なかなか難しいテーマですねえ。おそらく松本さんは①新人教育マニュアル担当者か②メンター制度の主な推進者といったところでしょうか。そういった苦労が詩中から推察されます。「甘やかしてはダメ、厳し過ぎてもダメ」会社にとって真に有為な人材育成には、そんなバランスが最も肝要で難しい部分でしょう。しかも企業にとって、教育とは「金にならない、金と暇がかかる、けれど絶対やらなきゃダメなもの」です。ちょっと昔と違うのは、若手社員の早期退職問題やパワハラ問題など、今日的な課題を抱えて会社側も難しい舵取りが迫られていますね。「厳しく言うな」の連あたりにそれが見受けられます。そして、その連以降、どちらかというと、②的な要素に比重があるように思いました。マニュアルを引用しながら、メンタルな部分の相談役、、アドバイザーになる、みたいな硬軟取り混ぜてのフォローが重要なのかもしれません。詩の要素としては佳作一歩前で。
8 森山 遼さん 「旅人」 8/11
冒頭佳作。詩の視点は、その人からけっして外れることはありません、離れることはありません。
そうでありながら、この人に「旅人」といった概念は微塵も感じられないのです。森山さんは、徹底して「旅人的観念・背景・行動」を排しつつ、旅人を描いた、と把握できます。ヘンな表現ですが、一度突き放して、他者的性向の中で書いている。そこにアンビバレンツとしての詩を感じてしまうのです。現代詩の持つ現代性を感じてしまうのです。これはちょっと面白い書き方をしています。ひとつの傾向として、実験的、と言っていいと思います。
アフターアワーズ。
ただし、かつての悪い癖―不必要なひとマス空けがまた散見されています。ご注意を。
9 トキ・ケッコウさん 「寓話」 8/11 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。まさに「寓話」といったタイトルがふさわしい内容で感心しました。
とりわけ、顕微鏡と望遠鏡といった、天地ほども違うものの対比が絶妙ですね。それぞれの自己主張も面白く読ませます。なぜ、ハリネズミが出たのか、は不明ですが、どこかユーモアのセンスは感じますね。最後に登場の「名無し虫」。これが生の最後の勝利者か?「徒に自慢してる暇があったら、せっせと働けよ!やられちゃうよ!」の謂いか?ここもオチ的、寓話的。「漁夫の利」という言葉があります。人数も違うし、当たらずとも遠からず的にイメージしていました。面白かったです。また書いてみてください。
10 静間安夫さん 「蛇」 8/11
結論から書きます。(好き好きだな)。
この詩はまずまず実話と推測されますが、そこはそれ、多少の脚色はあるでしょう。
都合、三匹いるようです。しかし、蛇のおかげでネズミを見かけなくなった、という地域は、どういう界隈なんですかねー(困惑)。やっぱり読みどころとしては、「空き家の増加→庭木・雑草繁茂→蛇を始め小動物の温床化」―これは現代社会世相を反映していて、良い論拠になっていますね。
あとはご自身のこと。小動物好き・昆虫好きですね。文字通り、冒頭の(好き好きだな)。
終わりに近づくにつれ、ユーモア大躍進。終連は決定版的オチ!「はい、その通りです」(苦笑)。今回は感想のみで願います。
評のおわりに。
広島~長崎の原爆。日航機事故。終戦記念日。これらが終わると、僕にとっての八月は、だいたい峠を越したように思えてきます。
日が少し短くなるのを意識するのもこの頃。秋を想い始めます。例年のことです。しかし、まだとっても暑いんですがね。
では、また。