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スレッドNo.6087

石礫のうた  人と庸

 今日は赤い月
 湖(うみ)は濃紺
 昼間には見えなかったものが
 だんだん見えてくる宵の道を
 不機嫌なきみを乗せていく

わたしはほんとうは知っていた
鉛のような雨粒が
きみの部屋の壁に穴をあけ
穴の中には
「おまえがわるいんだ」
と書かれていたことを

だからわたしは
山に行こうと思った
海にも行こうと思った
でも道のないところへ行くのは
どうしようもなくこわかった

(すべての人は道のないところから来たのに)

  ※

道のある町を歩いていると
見慣れた景色の一部が切り取られて
砂利が敷き詰められているばかり
そんなふうに 誰かの退出を
とつぜん知らされることがある
そこも「道のないところ」だったのに
誰かがそこから来て
そこへ帰っていくという場所だったのに

石の礫は手から放たれ
誰かを傷つけ地に落ちる
それが積もり積もったところがここなら
ここにいた人は解放されたのか

(隣の家の住人は 朝から道を掃いている)

  ※

少し動けば汗をかく
今日もろくな献立が浮かばない
毎日同じ道を走り
毎日同じ人に会う

(「つましく暮らすつまらぬ人間だからこそ かけるものもあるでしょう」※)

 つましく暮らすつまらぬ人間は
 ほらここに たくさん落ちている

石礫のような人間の
石礫のような生活は
それでも色彩にあふれている
たとえば
積もり積もった石くれのすき間から
あおい草が萌えいでる

 今日も赤い月が出て
 今日も湖は任意の色をしている
 山際の空はゆるし色
 ゆるしたいのかゆるされたいのか
 今日も
 不機嫌なきみを乗せていく




※ドラマ「広重ぶるう」の竹内孫八の台詞を元にしていますが、本詩に合わせて少し変えています。

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