8/12~8/14ご投稿分の評です。 滝本政博
「嗤うしゃれこうべ」 上原有栖さん 8月12日
民話のような詩。
難解な表現はなく、読みやすかったです。
夏向きのホラー詩ともいえるかな。
語り口もよいですね。作者は語り部のようです。
しゃれこうべが漆塗りなのがまず驚きです。
この詩をどのように発想したのかわかりませんが、この漆塗りのしゃれこうべの由来がわからないことも謎めいています。そして「それ」は偶に笑うのだという。
現実のすぐ隣にある禍々しさですが、そこはかとないユーモアも感じられるテイストになっています。
詩は頭で解釈するものではなく、全開の感受性と想像力で感じとるものであります。私は楽しみました。
「夏休みの記憶」 aristotles200さん 8月12日
aristotles200さんはいろんなタイプの詩が書けるのですね。まずそれが驚きです。
この詩を読んでいると、詩とは体験なのだなと思う。もっと言えば体験と想像力でしょうか。記憶が作者の中で血となった時に、はじめて詩が立ち上がってきます。
今回の詩は少し散文的でした。
水の中の流れ、光や感触をリアルに再現できればさらによかったと思います。つまり読者の感覚に訴えるということです。
体験した出来事のどの部分を切り取るのか、どのように描き、どう誇張するのか。その飛躍で詩は成立します。つまり、「詩としての真実」がなければ読者の心に届きにくいと思います。
「不穏」 荒木章太郎さん 8月12日
毎回感じるのですが、荒木さんの詩を評するのは難しいです。
今回の詩に関して……
たとえば「詩人とは本来言葉の意味文節作用の及ばない世界を改めて言語化する能力を有するものとします。」
この定義をもとに荒木詩を読むと、その意気やよし、と思うのです。
しかし、言葉が照らす像がぼやけてぴったりと焦点を結ばないところがあります。
言葉のチョイスに神経を使っていただきたいです。難しいことに挑戦しているのですから、ここはぴたりと決めて欲しいです。
あと
<はるか昔から人類は
戦争をやめられない
八十年の平和は
成長を止めたかわりに
足音を遠ざけた
それでも耳の奥では
乾いた靴底の音が
途切れることはない>
ここは唐突に感じました。
これを入れたいのなら、前半になにか工夫があってしかるべきだと思います。
きついことを言えば、発語するにふさわしい内部から湧き上がってくるような言葉を書いて欲しいです。
また、一つの詩には一つのことを書けばよいのであって、初めのうちはもつとシンプルな作品を目指した方がいいとおもいます。いろいろ書いてしまいました。すみません。期待しています。
「一途」 喜太郎さん 8月13日
今回は「一途」という言葉をキーワードに作品を形作っています。
論理的な矛盾もなく、読みやすくて好感が持てます。
言葉は共有財産ですから、極端なことを言えば、自分の言葉というものはありません。にもかかわらず詩はリズム、語順、比喩などなどで自分のことばにしてゆかねばなりません。
喜太郎さんがそのような独自の文体を持つことが出来れば、作品はさらに素晴らしくなると思います。
「青の証明」 松本福広さん 8月13日
今回は感想のみでお願いします。
とのことなので、以下簡単ですが感想になります。
(第一陣世界大戦以降、世界的に航空機の需要が高まる。日本も例に漏れない。旧海軍はより若いうちから基礎訓練を行い熟練の搭乗員を育てるため14歳から17歳までの少年を全国から試験で選抜して基礎訓練を行う予科練習制度を始める。)
この詩のなかで印象に残ったのはこの部分だった。
つまり、戦争を闘った多くの部分が子供時代の終わりにさしかかったばかりの少年だったのだ。例えば戦争を描いた映画など、マッチョな俳優が出演したりするのだが、ほんとうに戦ったのは子供たちだったのだ。
このことは強調しておかなけばならないと思います。
(予科練の厳しい生活の中の憩い。例えば、酒保があげられる。旧日本軍独特の名称で、売店のことです。日用雑貨や菓子類、うどんやお汁粉などを販売している売店で、夕食後が「酒保開け」となり、温習までの自由時間に利用することができた。)
なんとも胸が痛い。同時のそのような場所があり彼らはどんなにか嬉しかったことか。彼らはまだまだ子供であったのだ。
土門拳の写真、とてもいいです。
「希望」 社不さん 8月14日
佳作とします。
言葉で思索してゆくタイプの詩でした。
それは成功していると思います。
<答えのない答えを 軸を 光を 小さな闇を
求めていた 今日も夜が始まる>
<砂時計の砂が全て落ちても 時は流れ続ける
空白の中にも 何かが存在している>
ここ、いいですね。面白い認識です。
また光と闇を考察した作品ともいえるでしょう。
詩の終わりに向けて、明けて行く朝に向けて、作品が光に晒されてゆく。それがとても清々しい。
気持ちのよい作品でした。