宴 相野零次
かみなりが轟く夜、どこかで神様が泣いている。だから僕も泣く。
みんな鳴いている、にわとりも、こおろぎも、あまがえるも。
そんな日は決まって嵐の日で、空も鳴いているということだ。
幸せに手が届きそうで届かなくて、歯がゆい想いをするのはみな同じだ。
だけどオレンジジュースの橙の甘さはそんなことを笑い飛ばしてくれる。
黒いライオンが眼の前にあらわれて、僕のことを威嚇する。
僕はジャングルの王者に怯えながらも尋ねた。君も? 君も何かを探しているのかい?
黒いライオンはたてがみをぶるぶる降って僕の声援に応えた。
制服を着た応援団が何もつけていない旗を一心不乱に降る。何をつければいいのかまだわかっていない。
未来の君の何を応援できるのかまだわかっていない。
そのときカピバラが眼の前を通り過ぎようとしていた。みんな固まってカピバラのお尻に眼を奪われた。
雷の力で蛍光灯が何十本も光って回る。いよいよ本番がやってきたのだ。
いったいなんのことかわからないが、それはこの際問題じゃない。
黒いライオンが踊る。僕が怯える。カピバラがお尻を振る。
いつのまにかキリンが無数に乱立していてぴんぴんに伸ばした首をすこしでも空高くまで届けようとしている。
やっぱり応援団なんだね、何を応援しているのだろう。ここは学園の柔道室だ。
生まれる。
生まれる命がある。
この瞬間にも生まれる命がある。
亡くなる。
失われる。
この瞬間にも失われる命がある。
全ては命のために、泣くのも、踊るのも全て。
さあ、答えは明かされた。饗宴を始めようじゃないか。料理もたくさん用意しなければならない。
だからうさぎも豚も牛もやってきている。自ら進んでその身体を差し出す。料理人もやってきた。
食べる人も動物もたくさんやってきた。この狭い部屋では足りない。外へ出よう。
広い運動場にはたくさんの生き物が祝っている。
僕も、僕も宴に参加しよう。
僕は傍にあったなんだかわからない肉の塊にかぶりついて
国旗を振ってビールをがぶがぶ飲んだ。
やがて朝がやってくる、朝にはこの饗宴も終わる。
神様が流す大粒の涙がオーケストラになって僕たちを動かす。
終わらない終わらないよいつまでも。だってずっとなんだから。
ずっと命は始まり終わりを繰り返すのだから。そっか終わらないんだ。
じゃあ終わりに向けて盛り上げることも無意味なんだね、みんな、いったん落ち着こう。
静寂がやってきた。みな、お祭りの異様な熱気に心奪われていた。
これも神様の導きだ。今は静かに次の宴を始めるための後片付けをしなきゃならない。
僕は疲れた。ずっと騒いでいたから当たり前だ。この紙コップを片付けたらいったん眠ろう。
黒ライオンがおおきなあくびをした。
僕も大きなあくびをした。
ばたん。
僕が背中から布団に倒れ込むのと道場の扉が閉じるのと同じだった。
僕はしばらく泥のように眠る。宴はおわらない。他の道場ではまっさかりのところもあるのだ。
だって神様もたくさんいるんだから。