横断 温泉郷
ここは通行止めです
その先で工事をしておりまして
クレーンで
ものを運んでいますので
いったん
そこの横断歩道で
あちら側にわたってください
交通誘導員の
赤い誘導棒
やわらかな遮断
男性
顔をしかめ
何も言わずに
横断歩道に行き
赤で待つ
女性
「クレーン?なによ」
といいながら
横断歩道に行き
赤で待つ
誘導棒の揺れ
いざなわれ
いざなわれ
記憶がいざなわれ…
そういえば
揺れていた
あのエフェソスの
金属の長い腕
石畳と円柱
太古の図書館
広大な円形劇場
静寂の
青い空を遮断する
修復用の
黄色いクレーン
わたしも
一緒に赤で待つ
男性と女性の
表情は影の中
信号のヒト型が青になり
信号音に導かれ
みなが横断歩道を
わたっていく
わたり終わると
ふと みな
もと来た通りを
振り返る
静かな青い空
きれぎれの雲
朝のまぶしい太陽
クレーンは一体どこにある?
クレーンは一体どこにある?
建物にそれはなく
空にそれはなく
乾いた石畳
あちら側で揺れる
顔のない赤い誘導棒
かげろうのように揺れる
太古の石柱の影
青信号のヒト型が
点滅を始める
あなたたち
なぜ
踏み越えた?
ヒト型が赤に
直立の姿勢
超えたもの
超えたとき
行きなさい…
もう
あちら側に
戻ることはない