備蓄水 上原有栖
(午前二時)
蛇口を捻って
ペットボトルに水を満たしていく
容器が嘘偽りなく一杯になると
水滴を綺麗に拭き取ってから
丁寧に日付を書きつけた
冷蔵庫には透明なボトルが
棺桶のように十本並んで 静かに眠っている
新しいボトルを仕舞い込み
十日前の冷えきった記憶を取り出すと
流し台に向き合った
排水口を流れていく水には
もう要らない透明な感情が
最期まで寄り添って渦巻いている
終始無言を貫くのは
静寂の王が夜を支配しているから
水を貯めてそれから捨てる
この単純な行為が
私にとって一種の『儀式』となっていた