記憶の味 ゆづは
私が選んだ
味気ないトマト
ちっとも美味しくないねと呟く私に
まあ、こんなもんだよと
冷めた顔で答えたあなた
そんな温度差にも
今ではもう、
慣れてしまったのだけれど
トマトはほんのり赤く
瑞々しかった日々を
すっかり忘れてしまったみたい
あの頃の甘酸っぱさを
どこかに落としたままで
今はただ、熟れすぎた実となり
時が静かに流れ押し寄せる
薄れゆく味わいの中に
まだ残る 幽かな記憶の感覚を
私は見失いそうで──
けれど フライパンに乗せて
ひと手間かければ
硬くなった皮は香ばしく焼けて
柔らかな甘味が再び戻ってくる
それは 細胞壁に
閉じ込められていた
懐かしいあなたを発見した瞬間
そうして私は
トマトを頬張り
きっと、こう言うでしょう
あなたって、
こんな味だったのねと
その口元を緩めながら