エスプレッソ、或いは苦いだけの泥水〈ファンゴーゾ〉 上原有栖
大人になれば、コーヒーが飲めると思っていた
男も女も喫茶店ではコーヒーを頼んでいたから
誰もが涼しい顔で黒い液体を口にしている
芳香を吸い込み、違いが分かる役者を演じている
改めて目の前に置かれた小さなカップを眺める
どう見ても、泥水である
茶色の泡が浮いているからそうとしか見えない
飲める気が全く湧いてこないのだった
カフェオーレを飲んでいる目の前の友人は
ストローで吸いながら、飲まないの?
と視線で語りかけてくるのだが
それがまた、癪に障る
だってこれ、泥水みたいだし
そう口にしようものなら青二才が露呈するか
ええいもう大人だ、コーヒーは嗜むものだ
そう思い込み液体を口に含んだ
(……やっぱり泥水だよ)
あのさ、追加でパフェ頼んでもいいかな?
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注)ファンゴーゾ(fangoso)イタリア語で泥だらけの、汚れた、濁った等を示す言葉