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スレッドNo.6148

恋文  Ema

暗闇に目が慣れて 
羊たちにそっぽを向かれてしまったから

眠れない夜をあきらめて
眠らない夜にする

カーテンをあけると
紺青色の空が囁く子守唄に
街は身をゆだねていた

静寂につつまれた街に
ぽつり ぽつり とある
灯りの理由を数えてみる

ふと過(よ)ぎる 

あのひと。

あの人はどうしているのだろうか

面影はすこしおぼろげで
でも声は鮮明に耳に残っている

無条件に 
まっすぐに
ただただ どうしようもなく
好きだったひと

制服におさまっていた季節に抱えていた
零れるほどの想いは
はじけるように瑞々しくて
眩しくて直視できない

そっと
あの人の名前にふれてみる

どんなふうに歳を重ねているのだろう
声も変わっているだろうか

会いたいとは思わない
この空続きのどこかで 生きていてくれたらいい
いや、できれば幸せでいてほしい

疾うに薄れてしまっている
かつて交わした かけがえのない言葉たちを
手繰り寄せようにも
なかなか遠いところまで来てしまった

このまま時間に逆らうことなく
あの人の輪郭は ゆるやかにほどけていく

それでも
あの人の名前だけは
私の深奥に永く留まりつづけて
ごく稀に 
蛍のように しずかに 光るんだろう

かけ巡る思考は 届けるすべのない想いは 
宛てのない夜風にのって 
ずいぶんとさまよってから
空が仄白んできた頃に すっときれいに溶けた

空の裾が琥珀色に滲んで
街が夢から醒めはじめたところで

私も日常をはじめるために
頼りがいのない眠りにつく

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