水鳥の鼓動 温泉郷
堀端の酷暑
沿道のユリノキの葉は萎れ
ツクバネウツギの花が落ち
太陽が水草を腐蝕し
水面のこげ茶色が
広がっていく
真夏のランナー
わたしは
見たことのない
汚れた水面に
ああ また
足をとめる
わずかに残った
澄んだ水面に
寂しい水鳥が一羽
羽ばたいて
羽ばたいて
ずっと 羽ばたいて
水紋を生んでいる
水鳥は
そこにとどまり
羽ばたいて
羽ばたいて
水紋を送り続ける
水紋の同心円
少しずつ
澄んだ水面を
広げようとしているのか…
かすかな波動が
枯れた水草に届き
かすかに揺らぎ
揺らぎ返す
水鳥の鼓動
水紋が堀に広がる
足をとめる
ランナーが
2人、3人
無言で
水鳥を見つめる
わたしたちは
いつ
また
走りだせば
いいのだろうか…