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スレッドNo.618

夢列車 暗沢

八十(やそ)でもみすゞでも何でもよろしい
腹這いで 枕頭の書でも開いて
つらつらと文字を追いつつ
眼の重くなるのをお待ちなさい

時計は寝床よりお離しなさい
時刻表なぞございませんので
足踏み鳴らし 針を追っても
列車が訪れることは ありません

切符が有るのは 瞼の裏です
ああ そう目をきつく瞑らずに
力を抜いて 飛蚊と午後の灼け付きと
くぐり抜けた文字の遠望を 見越すよう

さらば
それらの奥から ちらちらと
うっすら吹き上がる片々が見えてくる
片々は柱をなしている

ひっそりと ひそやかにしのんで
それらへ手を伸ばしなさい
その一片を 握り離さぬよう
かくしへとお仕舞いなさい

あとは もう容易です

驟雨の後の朝靄に似た
うすらかがやく暗がりの奥から
ミルクをこぼした夜空にも似た
あの天の川です それが恰も
寸余の距離で 突如と奔流をなすことにも似た
明礬色の列車が
あなたの 真横を過ぎります

走馬灯のよう
緩やかになり始めた流れの中で
的礫とかがやく車窓には
あなたからは なにが見えますか

それは どんな過去ですか
過去であったもの ですか
それとも 過去となるものでしょうか
それは 美しいものですか

或いはまったく別のものかもしれませんね

             では おやすみなさい

 
  (ベンゾジアゼピン?レンボレキサント?
   白切符の乗車券は構いませんが
   指定席はございませんようなので
   荷列車や 貫通扉へ押し込まれても
   苦情は受け付けかねますよ)

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