一度きり 水井良由木
恥ずかしがる後れ毛が震えながら光を弾く
今日から晴れて夫婦なのだからというも
うつ向き言葉も発しないお前がいとおしい
肩を引き寄せ抱きしめればか細い声で
「灯りを……灯りを消してくださいませ」
と懇願してきたのだがそれは出来ぬ願いだ
一生に一度の、まさに一度きりのその時の
わたしの妻になる瞬間を見据えたい気持ちが
その時、その瞬間のお前の表情が見たい
それはわたしが妻に贈る唯一初めての証
そう、刻印ともいえる証を与える時のその
その時のお前の顔がわたしの一生の記念となる
もう、誰も見ることの出来ないその表情を
見えなくすることは出来ぬ、断じて出来ぬ
赤く染まった顔と寝巻きはわたしの一生の宝