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スレッドNo.6201

カタコト  荒木章太郎

炎天下、朝の通勤路で
僕の後ろを歩くのは、見知らぬアジアの人

カタコトの日本語で

(アナタニ アエテ
 ダイジョウブ デス)

カタコト——
電話かリモートで話しているのか
それとも独り言のように呟いているのか

僕は——君の前で
昨日から肉声を失った日常を
AIの助けを借りて拾い集めて
俯きながら
カタコト文字を打ち込む

君の戸惑いの断片が
風に乗って
僕の指先に届く

後ろから道を尋ねられ、僕は指を差した
最寄り駅が眩しく滲む

うごめく哀しみ、騒ぐ苦しみ——
翻訳しなければならない
君と僕の感情の気配を

母国語すら未だ不器用で
それなのに「インバウンド」に夢中になり
他の言葉を覚えることで
僕らはからだの声を置き去りにしていた
ああ、追い立てられていたのだ

喪失の傷を癒すことばを求めて
「大丈夫」と応えてくれる仲間を
僕らは不器用に探している

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