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スレッドNo.6214

飛行船  Ema

ゆらぎのない おだやかな空の日に
存在しないであろう 飛行船を探している

いつのまにか 
私の世界からこぼれ落ちていたから
さよならを言えなかったんだ

ちっちゃな乗り物を手に入れて 向かうところ敵なしだった私が
ゆったり街々を俯瞰するあなたに出遭うことは
雨上がりの空を伝う虹に歓喜することよりもずっと
日常に寄り添っている 特別な出来事だった

うたた寝をさそう空に あなたをみつけると
その小さな三つの車輪でよたよたと走り出した

もちろん あなたに追いつけたことはない
だけど飛行機よりもずっと近くて
どうしてだか 届きそうだった

黄色い通園かばんをたずさえて 会話が幾分なめらかになったころ
あなたのその円暢(なだらか)なお腹に人を乗せることはないと知る
ふうっとひと吹きしたしゃぼん玉のように
日々際限なくふえるかわいらしい夢のひとつが
ぱちんっとはじけた

大きな赤いランドセルを背負いはじめると
外は教室の窓たちで固定されて
空は極端に狭くなった

日常の大半の青空は同じ画角になる

それでも 学年が上がると 二度三度
その枠の中の遠くに あなたを見つける

もちろん あなたを追いかけはしない
窓際の席に着く私の
心だけが 走り出していた

最後にこの目に映したのは
いつだったのか

あなたには あの高揚感には  
きっともう出遭えないんだろう

さよならを言わなかったから

この空とつながっている
 遥か 遥か遠く
もう届きようのない空で
あなたは悠々と泳いでいる


そう
こうやって
喪失感に手を伸ばしている 
今日だって

日常に溶け込んだ
些細で重要なひとかけらと
さよならした日かもしれない

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