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スレッドNo.6229

内水氾濫  静間安夫

年々厳しくなる猛暑に加えて
大型台風、竜巻、線状降水帯…
異常気象の影響は計り知れない

中でも
近ごろ頻発する内水氾濫は
都会の密集地に住んでいる
わたしたちが、とつぜん
向き合わされた脅威なのだ

なぜって
市街地の中小河川は
どれを見ても
河床が深く掘り下げられ
川幅も広げられ
そのうえ護岸工事が行き届き
洪水が起こるなんて
まったく警戒していなかったから…

そんなわたしたちにとって
降水量が予想をはるかに超え
排水機能が追い付かず
処理しきれない雨水で
道路が冠水し、建物が浸水するなんて
これまで決して
想像できなかった事態なのだ

あちこちで
膝上まで水に浸かりながら
ずぶ濡れになって歩く人たち、
水浸しになってもう動けない自動車、
共同住宅やクリニック、
それにレストランの入り口から
わが物顔に流れ込む濁流

まるで「日常」とか
「普段の生活」とか
慣れ親しんだ世界の
底が抜けてしまったようだ

そして
何よりわたしが恐ろしいのは
マンホールの蓋が
空中に吹き飛ばされ
水柱が上がる有り様だ

たしかに、これは
異常気象を象徴する
ひとつの現象かもしれない
ただ、この水柱が わたしにとって
いっそう恐ろしく感じられる理由は
―いささか突飛な比較かもしれないが―
凶暴に出口を追い求める濁流と
ストレスに追い詰められて
とつぜん路上や乗り物の中で
他人を傷つけてしまう人々が
重なり合って仕方がないからだ

そうした出来事は、やはり
わたしたちの身の回りで急に増え
偶然、巻き添えになった人たちに
悲惨な結果をもたらしている―
一瞬にして
平穏な日常を壊してしまうのは
内水氾濫と同じなのだ

パワハラ、カスハラは言うに及ばず
日々の仕事、生活のあらゆる場面で
自己の感情をコントロールして
演技し続けなければならない重圧、
そのうえ
世の中に蔓延する同調圧力などなど…
夥しく増え続ける降水量のように
人々の心を押しつぶす
ストレスの種は尽きない

こうしたストレスと、どう向き合うか?
容易に答えの出ない問いを前にして
わたしたちは、ただ
立ちすくむよりほかはないのだろうか?

ひとつだけ
かすかでおぼろげな手がかりがあるとすれば
この場合も、やはり
内水氾濫との比較が教えてくれる―

それは、今
都会のあちこちに作られている
「調節池」、つまり
豪雨の時、膨大な量の水が
流れ込むことができる
巨大な貯水槽だ
まさに洪水対策の
最後の手段と言ってよい

結局,人間も
これと似たようなところがあって
こころが大きな湖のような
容量を持っていれば
ストレスだのなんだの
様々な問題が流れ込んでも
決して溢れないのでは?
と思うのだ

ましてや
その湖が深く広々として
いろいろな魚が住めて
おまけに岸辺を豊かな森林が
覆っていたらどうだろう?
これほど静謐な内面の持ち主ならば
余程の事態に直面しても
受けとめることができそうだ

きっと
自分が自分になれる時間を
努めて大切にしている人の
こころの中には
そんな風景が広がっているに違いない

いや
それだけではない―
ひとりひとりが持っている
こころの中の湖は
決して孤立してはいないのだ

なぜなら
それぞれの湖は
奥底の深いところで
お互いに地下の水路で
つながっているから

富士の麓にある
本栖湖、精進湖、西湖の三つの湖が
渇水の時も、豊水の時も、いつでも
湖面の標高が一致しているように、
ひとりひとりが
お互いに喜びと苦難を
分かち合っているからだ

編集・削除(編集済: 2025年09月24日 15:01)

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