麦茶と偉人 光山登
麦茶とぼとぼコップにこぼれ、
茶色の液体ざぶんと満ちて、
僕は苦い思いがどくどくと水流のようにあふれてきた。
なんとなく見ていたテレビに映った偉人の背番号に、
恋に憧れた日々を思い出した。
過ごした年月は川の水が流れて別の水脈へ行くようだった。
彼女は偉人がボールを打つ速度でやって来て、偉人がボールを投げる速度で去っていった。
ある晴れた日、
僕は左手にビール、
彼女は右手に麦茶、
偉人がスタジアムで偉業を成し遂げたのを祝福しあった。
こぼれた液体を拭き取ると、
ひとりになった部屋で僕は彼女が置き忘れた偉人のキャップを見つけた。
ゴミ箱に入れようとしたら、冷えた麦茶よりも冷たい涙が溢れてきた。