囁きの果実 ゆづは
色艶良く 粒揃いの
シャインマスカット
その中に隠れているのは
より甘くて熟した黄色く色づいた粒、
あるいは、
まだ熟しきれていない青く小さい粒
夜毎、密やかに囁き合うのは
夢の続きを映し出す声
遠い記憶の欠片を抱えたまま
月の雫を吸い込んで光る皮は
ひとつひとつの願いの結晶
誰かの秘めた望みを叶えるために
この世に実ったのだろうか
指先でひと粒ずつ 確かめるたびに
時がふっと揺らぎはじめて
果汁と共に溶け出す
未来の希望と過去の忘却
口に運べば、
戸惑いと懐かしさが交差し、
それでも止められぬその手は
果実を選ぶように
自分もまた選ばれていることに気づく
この小さな粒の中に
知らず知らず閉じ込めてきた
本当の自分がいることを
私はまだ知らぬふりをしている