もぐらの詩 上原有栖
人から見れば
ちっぽけなもぐらは
湿った大地をゆっくり移動する
やわらかい土を黙々と掘り進むうちに
長く伸びた生活痕が
ずっと後ろまで続いていった
ぽっかり空いた暗いトンネルでは━━
頑固な粒ぞろいの小石がぶつかってくる
(通り道でいつも邪魔だから困ってしまう)
腐葉土のホテルはふかふかに発酵していた
(食事と寝床はここに決めている)
濡れたティッシュが鼻先を少し湿らせた
(誰かの涙が染み込んでいたのかも)
銀色のお菓子の包み紙は誰が落としていったの
(まだ優しくて甘い香りがしたよ)
もぐらとは
土のなかをもぞもぞ動く
いつも腹を空かせている小さき生き物
前へ前へと 開いた手で器用に掻き進むけれど
掘れば掘るほどに腹が空いてしまうのだ
このまま死にたくないから
餌のミミズを探して穴をもっと深くした
人が生きているのは土の上
モグラが暮らすのは土の下
立場は違えども 緊張に晒されている
それぞれの場所で生き抜くために
今日もお互い もがき続ける
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(補足)
・もぐらは大食漢。毎日、体重の約半分にあたる餌を食事として摂らなければいけない。
12時間以上食事をしないと餓死してしまうとも言われている。
・もぐらは縄張り意識が強い生き物である。2匹のもぐらが出会うと喧嘩が始まり、負けた方は住処から追いやられ食事が出来ずに命を落としてしまうこともあるという。