自爆
好きだと言われた瞬間、僕は自爆してしまった。
なぜだかそんなことになってしまった。しんでしまったあとで後悔する。別にしななくてもよかったのに、好きだと言った子が泣いている。やっぱり生き返ろう。僕は立ち上がった。その子はやっぱり泣いていて、でも悲しいのではなく喜んでいた。
僕は精一杯の愛情を込めてその子に口づけした。
今度はその子が自爆した。いきなり眼の前が真っ赤になるとびっくりする。周りからも絶叫が聴こえた。自爆しないでよ! 僕はめいっぱい迷惑そうにしながら飛び散ったその子の残骸を掻き集めた。もういい頃合いだろう。その子はちゃんと合体して生き返ってくれた。いたずらっ子のように、ごめんね、と笑った。僕はもういちどその子に口づけした。今度は自爆しなかった。
恋をすると不死身になるという噂はほんとだった。きっと今の僕たちなら核兵器が飛んできたって平気に違いない。誰か試しにミサイルを打ってくれと言ったが、他の人がしんでしまうから駄目だと言われた。そりゃそうだ。それよりも自爆したあとの残骸をちゃんと片付けてくれと言われた。そりゃそうだ。
僕はその子……彼女かな。もう彼女と呼んでいいだろう。彼女と一緒に自爆した残骸を片付けた。
僕たちはお祝いがしたかった。せっかくしなないのだから、何かやってみようという話になって、ファイアーダンスを踊ることにした。身体にガソリンをかけて、火をつけた。安全面にはちゃんと注意をはらって、孤独なひとたちを巻き込まないように気をつけて。
ぼんっ! 一瞬で燃え上った。これが本当の愛の炎だ。僕と彼女は燃えながら手を繋いでくるくると回転した。すっかり焼き焦げて真っ黒になった頃合に、水をかけて炎を消してもらった。
炎が消えたところから一瞬で皮膚が元に戻っていく。周りから歓声があがる。僕らは本当に不死身になったのだろうか。
言い伝えによると不死身になるのは片思いが両想いになってから24時間だけらしい。
その24時間であと何回しねるか試してみるのも面白いかなと思ったが、万が一、本当にしんでしまってはいけないし、周りに心配や迷惑もかけるだろうから、それはやめにした。
そのとき、周りの大勢の人たちを押し分けて、白装束に身を包んだ一団がやってきた。改めてお祝いをさせて欲しいと言われた。どうやら恋で不死身になる存在は稀有らしい。とても縁起がいいといわれた。
どこかから神輿がやってきて、上に載って欲しいと言われた。これからお祝いの祭りをすると言われた。ぜひ参加して欲しいと言われた。僕らは照れながら了承した。
神輿が街を練り歩く。僕と彼女は屋根のてっぺんで観衆に手を振った。
そして数時間後、祭りのメインイベントが始まった。
僕と彼女とで心中するというものだった。方法はいたって簡単。僕と彼女と二人で白装束に身を包み、刃物を互いの心臓に向けて同時に突き刺すというものだった。
まだ24時間まで十分時間はある。僕らは了承した。
目の前に彼女がいる。両手で刃物をしっかりと握っている。僕らは近づいてお互いの心臓の位置を確かめ合うと、ゆっくりと刃を刺した。ずぶずぶと刃は埋まっていった。
出血多量で眼がかすむ。僕は彼女の顔を見た。にこりと彼女は笑ってくれた。僕たちはまた口づけした。なぜかはわからないが、僕らは二人そろって自爆した。
ほどなくして二人は意識を取り戻した。自爆する気はなかったので周りにお詫びをしたが、笑って許してくれた。
不死身は24時間までだから気をつけるように。と重々言われた。過去、24時間過ぎていたことに気づかずにしんでしまった例があるらしい。僕らは肝に銘じた。もう死んでみせる必要もないだろう。
次に僕らが死ぬときはいつだろう。願わくば天命を果たしてしにたい。そのときがいつになるかはわからない。僕が先か彼女が先かわからない。でもそのときがきたら穏やかに迎えたいと思う。