ある小説の中の二人 ゆづは
幾千もの文字が
編み上げられた世界で
二つの影が交差している
一人は 折れた頁の片隅で
孤独を抱いて眠り
もう一人は 伏線の先で
静かに愛の真実を待つ
ある日 突然、栞の壁が消え去り
ようやく二人が出会う瞬間が訪れた
声を持たぬ彼らが交わす言葉は
鍵の掛かった秘めやかな台詞
互いの呼吸だけが
物語の鼓動を刻む
時間が進むにつれて
文字たちは 消えゆくように擦り切れ
胸の奥に隠した 愛しさの色が
ひとつ またひとつ
白いページに染み渡ってゆく
やがて── 
物語は終わりを迎え
世界は閉じられて
静寂の中で残されるのは
二人の影が織り成した痕跡だけ
誰かに読まれるその時まで
一人は 折れた頁の隙間で
再び永い眠りにつき
もう一人は 最後の頁で
愛が報われるその瞬間を夢みて
いつまでも待ち続ける