抱擁 喜太郎
大事な君だから
大切な君だから
大好きな君だから
誰にも渡したくないから
両手で強くギュッて握ってた
やがて両手が痺れて
感覚が薄れてゆく
何を握っているのか
不安になって
心がガタガタと震え出して
思わず両手の力を緩めてしまったんだ
両手は痺れたままで
何かを握っていたはずな、のに
両手のひらに爪の跡が残ってるだけで
両手には何も残ってはいなかった
君を潰して粉々にして
指と指の間からサラサラと
溢れる様に消えたんだね
強く握り過ぎたから?
痺れの残る両手をついて
僕は泣いたよ
大事な君だったから
大切な君だったから
誰にも渡したくない人だったから
大好きだったから
両手で強く握った人だったから
ただそれだけだった
まだ『抱擁』の言葉の意味さえ知らなかったんだ