紡ぎ手 Ema
窓の向こうに広がっている
首都圏の空
まごうことなく 普通の空だ
この「普通」を実現させた人がいる
毎日
東京の空中を舞っていたのは
ペットボトル12万本分の 煤
この淀みを
放置してはいけないことを
誰もが分かっていたけれど
誰も重い腰を上げなかった
小さな声は押し潰されて
均衡を保つための一本の頑丈な糸が
ぴんと張り詰めていた
1999年 
都知事の職についた彼は
その力を正しく使ったと思う
『ディーゼル車NO作戦』 
会見の席で
彼は ペットボトルに入った真っ黒な煤をぶちまけた
その瞬間 
張り続けていた糸は弛み
一本だと思い込んでいたそれは
思惑と共にばらけていった
ようやく事は動き出す
そうして
マスメディアを巻き込んで
いくつかの業界を敵にまわし
世間の賛否両論を膨らませた
ばらけた糸は それぞれが意思をもって
こんがらがっていく
その絡まりをほどこうとせず
でもあきらめるわけでもない
ただただ彼はぶれなかった
その実行力は
彼の周りを動かし 
いくつかの業界を動かし
そして国をも動かした
年月をかけて
彼はそのすべてを撚って
ふたたび一本の糸を紡ぎ
その長い長い糸を巻いておさめた
「東京の空気をきれいにした人」 
生涯作家であったという彼に
肩書きや功績は数多くあれど
これ以上のものはない
そう思いながら
都会の空気をめいっぱい吸い込んでみる
青空とよべる空
星の存在する空
かけがえのない普通
これは彼が紡いで 繋いだもの
※一日遅れですが、故石原慎太郎の誕生日に寄せて。