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スレッドNo.6290

なにものどんぐり  松本福広

どんぐり
どんどんぐりぐり
どんぐりぐり
硬い殻に包まれ
中から
どんどんどん

何者かになりたいと思っていた。
何かをやりきって
何かを成して
誰かに名前をきざまれる
誰かに名前を伝え続けられる
誰かに求めるように
名前を呼ばれ続ける
何者か、に。

大量のどんぐり
どんぐりの背比べ
どれも変わらず
どれも同じに見える。
どれが君なのだろう?
私は、この中のどこにいたらいいのだろう?

その「何か」すらも見えていないけれど。
淡い水色と薄暗さがブレンドした
自己は
存在意義を求めて
透明を目指し苦しんでいた。
自分の姿と合わない気持ちを持て余す。

つやつや茶色の
ちっちゃな姿
おなじ姿に
おなじ中身
こころに形や色があったら
それは同じみたいなのかな?
どんぐりみたいに。

半ば強制的に
区切られた箱庭の
限られた段階分け。
その箱庭の中にもある
自由さに無自覚でいられて
箱庭の中の不自由さだけに
苛立っていた。
そんな私も
社会と呼ばれるところに巣立つ。

生まれ育った木
そこから落ちて
次に繋いで
消えてゆく。
そう教えられていた。
この木は
私にとっての箱庭。
ねずみさんに運ばれて
私はちがうところへ。

何者にでもなれると思っていた。
何者にもなれないと思っていた。
相反する気持ちは
振り子のように揺れ動く。

何かにおもちゃみたいにされるような気持ち
わかっている
姿を変えても
私はどんぐりでしかないんだ。
ゆらゆらゆれる
やじろべえみたいな
自分。

他に姿を変えるけど失敗をする度に
叱られる度に
縮こまる。
成功経験を積む度に
褒められる度に
伸びゆく。

どんぐり合同会社
どんぐりレストランの経営
給与の支払いはどんぐり
元気で明るいどんぐりな貴方と働きたい
居場所ならあるのかもしれないと思った。

本物とか、偽物とか
一流とか、三流とか
そんな言葉の刃がつきささる。
何者かになりたいから。
誰かに認められないと
私は何者かを証明できないのかも?

もっとツヤを磨け!
もっと色を濃く!
もっと色に渋みを!
言うことは皆んなバラバラ好き勝手。
認めたいものを
認めたいのだと知った。

まずは……生きていかないと
   何者にも……自分にもなれない。
      まずは生きることに懸命に。

生きていく上で
誰かの語る
本物とか、偽物とか
どうでもいい。
そんな価値観は要らなかったんだ。
誰かが作った格付けなんて
どうでもいい。

大地をしっかりと感じて
根を張ることが
きっと大事で。

会社や学校に向かう満員電車
段ボールに詰められたどんぐりのような
満載感で鉄の箱が自分を運ぶ。

世界から見たら
私の大きさは
多分どんぐりくらい。
どんぐりなんだけど
どんぐりって自覚するのが
難しい。
可能性って言葉は
どんぐり以外になれる気が
してしまうから。

どん
満員電車詰め込みの人の中を押すように
ぐり
そこから抜け道をみつけて
進むように
どんどんどん
抑え込む硬い殻を叩くように
ぐりぐりぐり
詰め込まれた社会から抜けるように

大人になっても
箱庭のようなところにいるけれど。
木には
まだ、なれていないけど。
視線が高くなって
鉢植えの木くらいには
なれただろうか?

外の空気が必要なのは
どんぐりも
私もそうで
プラットホームに差し込む朝日と
取り戻した自分一人分の酸素に
ほんの少しほっとする。

まずは……そう……
未来のため
今見える足元に
根をはるんだ。

編集・削除(編集済: 2025年10月03日 14:37)

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