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スレッドNo.63

評、5/27~5/30、ご投稿分、残り。  島 秀生

皆さん無事に移動してきてくれてるみたいで、良かったです。
ホッ!
ちなみに、このカラーリングは私の趣味ですので、あきらめて下さい。



●もりた りのさん「糸を離す」

ふーーん、よく書けてるねえー ぎゅっと詰まってます。
初回も思ったけど、やっぱりもりたさんは、なかなか上手だね。最初から長いのも短いのも両方書ける人、なかなかいません。すでにどこかで活動されてる方じゃないんでしょうか? かなり力量あります。
でもちょっとだけたどたどしいのと、映像をきちんとスロー動画で追いたいのでちょい変えましょう。

 ぴんと張ったあなたとの糸は切れ
 放たれた糸は高い空を漂う
 あなたはつむじ風に糸を連れて消えた
 涙に霞む目をぬぐうと
 切れた短い方の糸がひらり
 手の上に落ちてくる
 つながっていた糸を指が
 まだ握っているからだ
 ふわりあげても指が糸を離さない
 離さない 離れない
 指はわたしのものなのに


こんな感じです。この方が映像が動画で追える感じじゃないでしょうか?
短い詩は切っていくのがポイントですよ。文体自体はできてます。
それと「すぐに切れ」だと、もともと切れやすい状態だったみたいで、それよりも「ピンと張った状態」が恋人たちのあいだの一つの状態を表わしていると、見せたいと思いました。参考にして下さい。

恋人が逆立ちするような格好で、空に飛ばされていって、シャガールの絵みたいでした。
この詩は、もうそこで、ぐっときます。この詩の魅力の半分は、ここと言っていい。「つむじ風」と相俟って、別れをこんなロマンチックに表現できるのかと、むしろこちらに感心しました。
ちょい甘め秀作にしておきましょう。


●ピロットさん「晩翠先生」

土井晩翠の居宅には行ったことがありませんが、現存してるんですね。往年の大詩人、大作家と言われる人の居宅は、中身は違えども、どこか共通項があるんで、他の人の居宅の記憶と重ね合わせて読むと、雰囲気とても伝わってくるものがありました。
あまり他所にない意外な一点はベッドですが、翻訳もされてたことを思うと、海外渡航もされてたはずで、不思議でもないのかもしれません。
あと、いつも思うのは窓から何を見てたんだろうという点ですが、どうやら中庭のようです。
いろいろ興味深いですね。ピロットさんは多岐にわたって見識が深いですね。

ところでピロットさんの場合は、自身のおばあさんが住んでいた旧家の記憶と、すごく重なった様子です。私はこの詩のポイントの半分近くは、そこでもある気がしているので、お祖母さんの登場シーンは、くっきりさせたほうがいいと思います。
そこで思うのは、3連の後ろ2行も、(ただいま)(また参ります)と同様に、( )で括っていいと思いました。
本当は(  )部分こそを字下げしたいところなんだけど、詩(句)の一節を入れる部分で字下げを使ってるんで、それに遠慮しての( )付けなんでしょうね。
また、その字下げ部分は、「  」部分の引用とも分けているようなので、こっちはオリジナルということなのでしょう。
してみると、詩の長さのわりに、ちょっと盛りだくさんなことになりましたね。
そのせいかもしれませんが、今回はトータルで味わうに至らず、かいつまんでおいしいとこ味わったというのが、正直なところです。
秀作プラスを。

あと、「馥郁な香」はちょっと違うなあー
良い香りが漂う様を言うんだけど、「馥郁たる香り」「馥郁とした香り」あるいは逆並びの「(香りなどを)馥郁と放つ」に使われ方が限定されているもので、なんていうか、必ず「香り」を伴って、それを良い方に増幅する役割の形容詞的性質のもので、
「馥郁」自体は名詞のはずではあるんですけど、名詞として独立してないというか、名詞として扱われることがないというか、実際の使用法としては「馥郁たる」「馥郁とした」の形容詞しか、存在していないと、考えてもらった方がいいです。
ですから一般的な名詞のように、それを形容詞化した形の、「馥郁な」の使用はアウトだと思います。つまるところ「馥郁」は、ちゃんとした名詞じゃないから、ふつうの名詞的使用はアウトなんですよ。


●江里川 丘砥さん「空白-父の日に-」


これは凄いな、いい詩だねえーー
自分が大人になる前に亡くなった父の話は、詩でもちょくちょく目にするけれど、記憶にないほど小さい時から父がいない立場からの詩は、初めて読みました。いや、実際、こういう立場の子供もままいるはずなんだけど、そういう人は口に出さないし、ましてや詩にもしないから、その立場からの父の不在を、正面から見つめた、というのが、この詩の凄いとこですね。

ぐっと昔、戦争さなか、昭和18~20年あたりの生まれの人で、そのあと父が戦争に行って、そのまま帰ってこなかったから、父の記憶がないという人(きっと今のウクライナの赤ちゃんたちも、少なからずそうなります)の詩は、目にすることがあるんですけどね。こういう現代を生きる若い人の今の声で聞く詩は、初めてですね。現代性という点でも価値があります。とりわけ、同じ立場で、普段は口にしない人の共感を多く得そうです。なんていうのか、成長過程で父を失った人とはまた違う、「そもそも記憶にない寂しさ」というのは、独特のものだと思う。そこに向きあってるのが、この詩のすばらしいとこですね。

でもそれは決して特殊なことではなく、翻って現代社会を思うに、いま日本の離婚率は35%前後、3組に1組は離婚する時代なので、親と親とのあいだに挟まれて、こういう子達が増えるというのは、現代日本のれっきとした側面かもしれません。

ところで詩中もいい表現がいっぱいですね。

 昨日今日 空いたわけでもない
 もう傷口でも むき出しでもない
 くり抜かれた部分には
 草木が生えて
 風が通り抜ける

これ、状況を知るにわかりやすいです。

また、これの発展形のリフレイン
「空いたままの穴から/遠く入り江まで吹き抜ける風~」の連もよかった。

また、結びの部分となる

 父は空白により
 私の人生に問いかけた
 大きな存在を不在で示し
 世界を広げ
 感情を深めた

 この穴からしか見えない景色
 それを知るのが
 あなた由(ゆ)えの私

これらの連の帰結も良かったです。
名作を。そしてこれは江里川丘砥さんの堂々たる代表作ですね。
すばらしかったです!!

一点だけ。
詩の原稿って、印刷物としても、たいてい1行25字は取ってくれるので(30字までOKのとこもあり)、1行20字に無理におさめなくていいですよ。たとえば、

 愛だけでは一緒にいられなかった
 恋人のように



 愛だけでは一緒にいられなかった恋人のように

でも大丈夫だし、逆に間を取りたかったら、

 あるいは
 愛だけでは一緒にいられなかった
 恋人のように

としてもいいですよ。
もちろん、今のリズムで自分が合っているなら、そのままでOKです。
ムリに1行20字以内におさめなくていいんだよ、ということだけ知ってて下さい。


●朝霧綾めさん「夜風」

質感があっていいですね。五感全部を使って書いてる気がするし、ひとつひとつを丁寧に書いてるのがいい。

一点だけ、

 木の奥にある電灯のオレンジ色が
 星のような針を
 いくつも出して回転する

これ、フツウの外灯じゃないのかしら? 「回転する」の言葉が決定的にわからなくします。
フツウの外灯は回転せんからね。「回転する」がなければ、凝った表現かな?で済むんですが。「回転する」となると、なにかのネオンだったのかしら? となって、読んでる側に映像が浮かばなくなる。「回転する」は説明必要レベルですね。

そこだけです。あとは良いと思いますよ。いいセンスお持ちです。
また書いて下さい。初回ですので評価つけず、感想のみとなります。


●じじいじじいさん「たいようとせんせい」

後半、ちょっとだけ変えましょう

 たいようのごきげんで
 あつかったりさむかったり
 あめだったり
 どれかにしてよ
 やんなっちゃうよ

 がっこうにいるとき
 せんせいのごきげんで
 たのしかったりつまらなかったり
 せんせいもごきげんたいようみたいだ
 せんせいにおねがい
 たいようじゃないんだから
 しっかりしてよ


3連に「さむかったり」を足したのは、1~2連で半袖か否かの論議があるので、脈絡上「さむかったり」が抜けないと思ったからです。

4連の変更は、いっそ「ごきげんたいよう」にした方が、先生にあだ名つけてるみたいで、子供ごころに近づくかな?と思ったからです。
詩のタイトルも「ごきげんたいよう」」にしてしまってもいいですね。絵本にもそういう子供の造語のタイトル、よくありますからね。

うむ、今回は良かったです。秀作を。いつもこんなふうに粘り強く書きましょう。


●エイジさん「梅雨の楽しみ」

この詩の一番いいところは、皆が嫌がる梅雨にも、いいところがあるよという、ちょっと逆の発見があるところですね。
公園の中で1ヵ所屋根のあるところも知っていて、そこで雨を楽しむという、リアルな臨場感がよく、読んでるこちら側も楽しませてもらえます。
木々や葉の表情を描いてるところもいいね。秀作を。

うむ、だいぶ叙景の腕が上がりましたね。
あと、もうひとつやってほしいのは、オノマトペです。
「ポツポツポツ」と「ザーッ」のところ、ありきたりの擬音でなく、別の音表現を考えてみて下さい。こういうふうにも聞こえるよという、オリジナルの擬音を作るのです。これができるともう一段上がれます。
最初はちょっと難しいかもしれないけど、試していってみて下さい。伝わるか不安があれば、「屋根から滴る」「本降りだ」みたいにそれぞれ補足の言葉をつけて、2行立てにしてもいいです。
叙景のうまい詩人は、必ずと言っていいほどオノマトペを巧みに操るので、エイジさんも次の課題にしていって下さい。叙景だと毎回出さなきゃいけないってわけでもないんですが、「もし擬音を出すならば、オリジナル」ってことですね。

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