りんご 相野零次
生まれたてのりんごを齧って僕も君もご満悦
生まれたてのりんごは初々しくて恥ずかしがっていたけど
そんなことは関係なしに一番にかじりついたのは僕だった
この世界のイルカの好物はりんごで君から与えたりんごで
イルカは見事なショーを見せてくれた
世界の中にりんごがあるから世界が齧ったりんごの隙間から
朝焼けが見えて神様がそこから覗いているような厳かな気持ちになった
りんごのある世界の僕とりんごのない世界の僕がお互い見つめ合っている
なにもかもがおなじに見えて少し違うその違いは今から数十年後にわかるかもしれない
わかったとしても気づかないほどの違いだろうからあまり意味はない
君にとってりんごは重要だ 君の好物はりんごだから
りんごは甘いか辛いかりんごを食べる前の君にはわからない
君は不安がっているが結局思い切ってかぶりついた
それはとても美味しいりんごだった
君は喜んでそれを平らげ学校へ向かう 今日のテストの結果はきっと良いだろう
世界は君にはやさしくて僕には厳しいようだ
僕の齧ったりんごには虫食いの穴があって
そこから虫が顔を出していた
僕は顔をしかめてりんごを放り投げた
ゆっくりと放物線を描いたりんごは生ごみを入れるくずかごにすとんと入った
僕は世界を少し呪わなければならなかった
そのころ君はテストの結果がよかったらしく神様に感謝していた
世界がりんごを好きなのか嫌いなのかはどちらの可能性も秘めているとしか言いようがない