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スレッドNo.6318

霧の朝  ゆづは

六度目の
金木犀の香りが窓に触れる
私はあの日に漂うように

歪んだ窓枠の隙間から
記憶は細かな塵となって零れ
掬おうとする指をすり抜ける
最期の吐息のような軽さで

あの朝 私は
深い霧の底で息をひそめていた
世界は輪郭を失い
庭の木々も 鳥の声も
ただ白い静寂に包まれていた
 
秋の気配が肩を撫で
遠く どこかで歌声が響く
それは 父の声のようで
それとも誰かの記憶の残響だろうか
混ざり合って 区別がつかない

病室の夕闇に溶けた
掠れた声の色は
私の中の霧にかすんで
ぼんやりとしか思い出せない

傍らにあった温もりは
冷たい壁の奥へと沈み
ただ 空だけが
いつもの場所で
違う色を滲ませている

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