自由だ 荒木章太郎
自由が型崩れをして
薄汚い俺の部屋の壁に
ぶら下がっていた
元々は輸入品である
綻びて汚れていい具合の
ヴィンテージ物だ
時代は変わるというから
メルカリに売り出した途端
俺の自由が消えた
誰が仕入れたのかも
知らない自由だ
二年前に自由を求めて
フランスに留学した
彼女にリモートで尋ねた
画面の向こうの君は自由を
フォーマルに着こなしていた
(この世に制服が在ることを知り
征服される経験を通じて手に入れるものよ)
考えてみればアダムとイブの誕生以来
丸裸の肉塊に衣やら、信仰やら、
思想やら、信念やら、もろもろを
身につけた結果
言葉に縛られているらしい
新自由主義は
自由を着崩しているらしい
世界中の国々で着古された自由を
俺はどのように身につければ良いのか
夕暮れに沈み込む灰色の壁を
俺は呆然と見つめていた