9月30日(火)〜10月 2日(木)ご投稿分、評と感想です。 (青島江里)
◎9月30日(火)〜10月 2日(木)ご投稿分、評と感想です。
☆ある小説の中の二人 ゆづは さん
この詩の世界を織りなす感覚。あぁ、なんとなくわかります。一冊の本の中に実際の世界があるのです。活字ではない世界です。うまく言えませんが、実のところ、私も過去に、このような感覚に包まれたことがあり、その感覚の一部を持って、詩を書いたことがあります。作者さんはこの感覚の世界に栞を持ち込み、更に独自の空想の世界を広げられていますね。
栞がまるで天の川のような役割をしているように思えるところもユニークですし、開いているページが現代で、その先のページが未来と思えるような感覚もユニークでした。実態としての本の世界の中でのことなので、時間を動かすのは読者というのもこれまたユニーク。
この感覚をうまくいかせていると思ったのがこちらのフレーズ。
誰かに読まれるその時まで
一人は 折れた頁の隙間で
再び永い眠りにつき
時間が止まって、読者の誰かが時間を動かしてくれるまで報われることはないのだとしたところ。どうしようもなさと切ない気持ちが伝わってきました。
ユニークな感覚。詩にうまくいかされていると思いました。特異な世界ではなく、どこにでもある日常を彷彿させてくれる現実の世界の空気感が、より一層、近づきやすいものにしてくれていると思いました。佳作を。
☆思い aristotles200 さん
岩山の影から月を見ている
手には弓と矢
あの月を、射ようと思う
不可能ではない
こちらの言葉を目にした際、「え?今から岩山の影から月を射るって??しかもそれは不可能ではないって??どういうことなの??」という気持ちになりました。
どんどん読み進めていくと、とうとう月は射貫かれてしまったではないですか?!
いったいこれは??と思っているところに
その光景を前に
軽く、頷くと
狩人は帰路につく
天空には
満月がのぼり
行く道を照らす
地上には、狩人の影
こちらを目にして、あぁ、空想の世界だったんだ!と頷いてしまいました。仮にこのままで終わった場合、月を見て空想している人の作品でジ・エンドになってしまうのですが、続く総集編ともなるような最終連のしめ方がよかったです。
思いは
不可能を可能とする
そして
不可能は不可能のまま
変わることはない
ド直球の言葉なのですが、前半で空想の世界をほどよく融合させているためか、説教じみた感じが全く出ていないですし、不思議と説得力があります。全体のバランスとして、空想の世界が幅をしめているので、本来なら頭の部分が大きすぎる作品になりそうなのですが、この最終連が巧みなつながりで全部を支えているので、そういうことを感じさせない作品になっていると思いました。内容に際しての作品の長さも、短すぎず長すぎずで、読み手を楽しませてくれました。佳作を。
☆イルカの少年 荒木章太郎 さん
作者さんの心情がガンガン感じられる作品でした。スマホの中の世界。会ったこともないのだけど、日々重ねるごとに、なぜかいつも誰かがいるように感じ、中には、ある日突然に消息を絶ってしまい、どうしているのかと心配しあったりする存在もあったりして。いいねの数に一喜一憂するということもあったり。そんなwebの世界について戸惑ったり、流されないように冷静に一旦立ち止まっている作者さんの様子が浮かんでくる作品でした。
個人的に気になったところは、三点ありました。
一点目は
いいねはいるね
いるねはイルカ
いいねはいるというという印ということはわかるのですが、いるねはイルカというところが、いいねはイルカのマークであるということなのかなとは思ったのですが、個人的にはには、少々分かりづらかったです。
二点目は
架空の海を泳ぎ疲れた
君と出会うために
現実の海を泳ぎ疲れた
僕を救うために
僕はイルカの少年だった
架空の海というのは、webの世界だということはわかったのですが、次の行の現実の海については、一瞬、実際に海で泳ぐシーンが浮かんだりしました。なので、現実とするよりは、「社会」や「現代」など、時代を醸し出す言葉をあてるといいのではないかなと感じました。
三点目は
「イルカの少年」というフレーズです。もう少し言葉を加えた方がいいかなと思いました。なぜかというと「イルカに乗った少年」とも「イルカになった少年」とも捉えることができてしまうからです。タイトルにもなっているので大切なフレーズだと思います。作者さんがしっくりとくる言葉が見つかればいいなと思いました。
五連目以降、とてもよかったです。溢れんばかりの作者さんの思いが綴られています。心の声が響いてきました。特に「主体を他人に委ねるな」や「もう愛されることを求めない/君の存在を愛する」などは、熱量のある力強さを感じさせてくれました。今回は佳作一歩手前を。
☆抱擁 喜太郎 さん
今回の作品は、抱擁という所作一択集中で描かれた作品ですね。背景や何者にも頼らず、その所作のみ。結構、難しかったのではないかと思います。
大事な君だから
大切な君だから
大好きな君だから
「大」の連呼。気持ちを強調するのには効果的であるのですが、個人的には、好意を寄せる人にとっての表現を「大事」「大切」「大好き」で並べて終わるのは、せっかくの「大」の効果もかえって平坦な感じにさせてしまう気がしました。しかも、この一連目は、最終連でリフレインされています。なので、詩全体に3つの「大」のつくワードのうちのいずれかを残し、あとは、その思いを感じさせてくれる表現を考えてみると、平坦なイメージの縮小にもよいかなと思いました。
四連目は言葉と言葉のつなぎ方がスムーズにいっていないような気がしました。
あくまでサンプルの一つとしてですが、以下のように手を加えてみました。
君を潰して粉々にしてしまったから
指と指の間からサラサラと
溢れる様に消えてしまったんだね
強く握り過ぎたから?
痺れの残る両手をついて
僕は泣いたよ
作品の全体として示したいものが、失恋であることや、相手の気持ちを察することに不器用だった「僕」が感じられました。三連目と四連目は失ったことへの比喩だとわかるのですが、現実の世界へのスライドする橋渡しの役割の言葉を加えると、現実味や、生々しさがより鮮明になるのではないかなと感じました。
メインになる三連目と四連目ですが、抱擁を「潰す」と「握る」に置き換え、不器用さを表現したところは、大当たりだと思いました。これら各連から、強い喪失感、そして、とめどない孤独が感じられました。
所作一択集中型、結構、難しかったと思います。色んなことに挑戦するのは、とてもよいことだなぁと思いました。これからも書きたいと思うことに、作者さんの世界磨きとして、ノビノビと挑戦してくださいネ。今回は佳作二歩手前を。
☆紡ぎ手 Ema さん
石原慎太郎さんは、作家として、政治家としてもご活躍された有名な方ですね。今回は、作品の評価については、場合によっては、人それぞれの思想の部分に関わってくるかもしれないので、作者さんの心に残る人についての思いという視点からの感想を書かせていただきますね。
作中に出てくるキーワード「普通」・・・・・・ひとくちに普通がいいとか、言うのは簡単ですが、それを支えているもの、いくものがあるからだということを、改めて感じさせてくれました。そしてみんなが納得のいく普通の難しさや、実現すること、そして保ってゆくための気苦労も。
普通というのは、ただなんとなくそこにある。当たり前のようにあるという意味が強く全面に出ていることが多く、ほとんどの人々が通り過ぎるのですが、深堀りしていけば、必ずその裏側やことがらの芯の中に、支えてくれている人、しっかりと見つめてくれている人がいるといるからだということがわかります。作者さんは今回、一人の人を通して、深くそのことを心に刻むことができたのだということを、詩を通じて伝えてくれましたね。
また、その普通を守り、支えてくれた人を通して、その熱意はその方の姿かたちがなくなろうとも、実証として後世の人々の心に刻むこと、そして、その人たちの新たな手により、紡いでいくこともできるのだと、しっかりと読み手に伝えてくれました。詩の最後の方で登場してくる「かけがえのない普通」というワード。とてもとても深い言葉だと思いました。
かたちのない心を動かすことは、人の心を動かしたいからという目的を持ってではなく、誰かや何かのためにという、まっすぐな思いからくるのだということも感じさせてくれる作品でした。
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ようやく暑さも落ち着いてきましたね。
酷暑を乗り越えた稲穂の波が美しいこの頃です。
みなさま、今日も一日おつかれさまです。