赤ずきんさん 喜太郎
好きだったんだ
本当に心から
愛していたと言ってもいい
森の中で初めて彼女を見つけた日から
食欲よりも愛が勝ってしまったんだ
だから何度も何度も
お婆さんにお願いしたんだ
お付き合いを許してもらおうと
だけど………だけど人とケモノは………
気づいた時には
お婆さんを丸呑みにして胃袋の中
やがて来る赤ずきんさん
どうしても一度だけでも
赤ずきんさんと近くで話がしたかった
赤ずきんさんを近くで見たかった
赤ずきんさんに少しでも触れてみたかった
赤ずきんさんはベッドの中に隠れている僕に尋ねるんだ
俺は素直に心のまま答えていた
大きな耳は君の声を聞きたいから
大きな鋭い瞳は君を見つめていたいから
大きな手は君に触れてみたいから
そして大きな口は………ケモノだから!
食べてしまいたいくらい愛していたから
誰にも渡したくない
強く危険な衝動は
赤ずきんさんの怯えたケモノを見る目に動かされた
気づいた時には
彼女は僕の胃の中で僕と一つになった
安堵感と満腹感で僕は寝てしまった
通りすがりの狩人が僕の腹を割くまで
僕は何も気づかないで夢の中だった
身体を走る痛みで開けた瞼の先には
真っ赤なお婆さんと赤ずきんさん
あの時の君の瞳に宿る憎しみ
僕の意識が薄れてゆく中で聞こえたんだ
このケダモノ!って
狩人がつぶやく
なぜ丸呑みしたんだろう?と
当たり前じゃないか
愛する人を牙で傷付ける訳ないだろう
ああ でも一瞬でも一つになれた幸せを僕は胸に抱いて
地獄へと落ちてゆく
後悔なんてありはしないさ
愛する人を食べれたんだから