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スレッドNo.6383

後悔心理  上原有栖

珍しく娘と喧嘩をした

 明日には大人になっちゃうんだから

どういう意味なの と
わたしが聞き返す前に
そんな捨て台詞を残して
二階へ上がって行った彼女は
次の日降りてこなかった
 
 原因不明の突然死だった

時が止まったようだ
かけがえのないものが消えてしまった
失った存在の大きさに呆然とする

それでも淡々と 為すべきことを為した
知人はお悔やみの言葉をかけてくれる
それに合わせて
人形みたいな会釈を繰り返した

身体から想い出が溶けだすように
わたしの黒髪は白くなった
悲しみを引きずっているのに
何故か涙は出なかった 

ある日 洗い物をしていて
娘のコップを割ってしまった
派手な音を立てて飛び散る破片に手がすくむ
飛び散った欠片を拾っていると
いままで流れなかった涙が零れ落ちた

 それから 泣いて 泣いて
 そのまま 床に崩れ落ちた

いつの間にか夜が明けていた
わたしが顔をあげると
降りてきた娘と目が合った

 あっ おはよう なにしてるの

その声に心臓がざわつく
瞬間 夢と現実が交差する
カレンダーは彼女が眠りについた日付に戻っていた
あの過ぎた日々は只の幻想だったのか

  娘が亡くなって時間が止まった夢
        または
 娘が生きていて大人になっていく現実

昨日の喧嘩で取っ手が外れたコップを
彼女はこれから湯呑みとして使っていくらしい
屈託なく報告する姿を見て気が付く

まだ離れられないのは わたしの方なのかも と

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