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スレッドNo.6384

評、10/10~10/13、ご投稿分、その1。  島 秀生

●じじいじじいさん「信じる」  

うーーん、名前の「未来」のところは、おっ!と思ったんですがね、詩の後半、なんでその「未来」で、もっと押していかないかなあー
名前の未来と子供の未来をもっともっとタイアップさせて、話を続けて行かないかなあー
いつも良いこと、良いところを書いてくれていて、スタートはいいのだけど、話の突っ込み、深さのところで足りないので、結果、どうも平凡なところで終わってしまいがちになります。さわりのところは書くんだけど、その人の心情への入り込みが足りない。

今回も、子供の誕生のシーンを描いてくれていて、いいシーンなんだけど、本当にママになったばかりの人の心情を描いているなら、もっと真剣にその人の心情で書いてほしいと思うわけです。
まずもって、その子の健康を願わない親はいない。その言葉がない。また、後ろの2連目は、あまり生まれたばかりの子供に言う事柄ではない。もし同様の内容を言ったとしても、そんな説教がましい言い方は、生まれたばかりの子に絶対しない。「一つだけ言っておきますね」なんてセリフは論外です。
そういうところがいつも安易なんですよね。その人の心情にもっと真剣に入り込んで欲しいと思うわけです。

終連もそう。最初に「ママ」と言ってるんだから、終連も「パパと私は」じゃなくて、「パパとママは」ですよね。入り方が浅いところが、こういうところにも出てるんです。

たぶん、前の1~3連は見聞きした部分があるのか、ベースがあるのか、まだしゃんとしてるんですけど、4連以降の後半がいけない。

市販の絵本を読んで頂いても、どの本にもハッと感動させるものがあるでしょう? じじいじじいさんのは、雰囲気似てても、そこがないんですよね。そのハッと感動させるものは何かというと、やっぱりぐっと深い想いや、ぐっと深いヒューマンから出てくる意外なひとことや事柄なわけです。私はそこを求めたい。それがないのは視点とか個性とかの問題じゃなくて、つまるところ深さが足りないから出てこないのだと理解してほしいわけです。

ピュアーな心から出てくるやさしい言葉もたしかにあるのだけど、ぐっと深い想いや考えから出てくる、やさしい言葉もあると知ってほしいし、じじいじじいさんに望みたいのはむしろ後者。

うーーん、どうもいっこうに改善が見えないので、きょうはちょっと厳しめに書きました。ご容赦下さい。
秀作一歩前です。


●aristotles200さん「アンデッド」  

うむ、この詩はちゃんと視線が順に追えてるのでいいと思います。主たる人物の輪郭と行動が明瞭に伝わります。
この詩の舞台は、「大きな戦争とそのあとに起きたウイルス汚染で死体の山」となった世界、すなわち人類が死滅した後の世界であるようです。現実に、地球全体を巻き込む核戦争と隣り合わせの現代であれば、この舞台設定自体が、人類への警鐘の意味を持っていると、まずもって言えます。
また、意志を持たない完全悪として描かれがちなアンデッドですが、アンデッドとは終末戦争後の元・人間の姿であり、アンデッドにもアンデッドの孤独があると描かれているところが特徴的です。
設定が非常に興味深いし、人物もよく追えている、いい詩だと思います。途中で驢馬と出会うのもナイスアイデアでした。
名作あげましょう。

2点、気になるところがあります。
まず5連。リズム的に今の5連がちょっと浮いてるので、5連をうまくはめるために、5~7連前半までをこんな感じに置いてはどうでしょう?

赤色と化した海にも潜った
魚はおろか
藻すら見かけない

襤褸をまとい
遥かなる高峰にも登った
頂上で見つけたのは、白骨のみ

そうして
何十回目かの荒野で、アンデッドの驢馬と出会う

こんな感じが一つの案です。
あともう1箇所。
ラストの処理なのだが、東の国の話は、暗に、今の日本にはアンデッドみたいな人が多いというアイロニーにも受け取れて、それはそれで意味があるところも認めるのだが、ストーリー上は、ここでアンデッドに一縷の希望を作ってしまうことになる。
すると、その希望についての後処理が必要になってくる。また続編を書いて、その希望を叶えてあげるか、なんらかの形で、その希望も消失させるかが、必要になってくる。
例1

記憶の人たちと
何処かで
出会えるかも知れない

白骨となった旅行者の手帳には
こう記されていた
遥か東の島国に
不死者たちの国が存在する
朱色をしたtoriiをくぐると
人間のように
語り、生活できるのだという

しかしアンデッドになった彼に
もう文字は読めない

襤褸をまといしアンデッドは
今日も一人
荒野を彷徨っている

という感じが、その希望を消失させる方の例です。
しかしながら、ここまでのこの話の流れから感じるのは、ある意味、人間の永遠の欲望である「不死」が、決して幸せなどではなく、絶望の無限ループであることを思わせる。私はこの幸せにも希望にも出会わない不条理な生のまま終えた方が、ストーリー全体として意味があるように思う。なので、私の意見としては、後ろから2連目は削除で、希望を作らないまま終わる案、
例2

記憶の人たちと
何処かで
出会えるかも知れない

襤褸をまといしアンデッドは
今日も一人
荒野を彷徨っている

の方が良いと思えるが、そこの判断は作者にお任せします。
ただ、後ろから2連目については、後処理をするか、削除するか、なんらかの処理が必要となる箇所で、このまま放置はいけない、という点だけは申し上げておきたいです。


●松本福広さん「鏡の憂鬱」  

まずもって、いつもながら、松本福広さんの視野の広さには感心します。題材の範囲の広さはピカイチです。

4連の「鏡の法則なるものがあるらしい。」以降、その解説となるところ。また、7~8連の、空を見られる私たちの特権の話のところは、凄く説得力のある話で、とても良かった。感激がありました。
正直、この8連で終わってもいい気がしましたが、作者的には終連が書きたかったのだろうから、まあ……、止めないでおきますが、9連をもうちょっとスルリと軽く書いてもらったら、終連まで行きやすくなったと思います。

力作でしたね、名作を。

ところで、ちょっと万華鏡の話をしますが。

※奇数の合わせ鏡……万華鏡は偶数の合わせ鏡で作られます。奇数だと鏡像が重なってしまいブレた画像になってしまうそうです。

と、書かれている注釈があまり正確な言い方でないので、ちょっと訂正させて頂きたい。

まず一般的な万華鏡は、正三角形の状態に置かれた合わせ鏡です。鏡の数だけを言うならば奇数です。また鏡4枚で四角形の形でもできるのですが、鏡像がただ単調な繰り返しになるだけとなり、おもしろくない。美しいのは三角形が繰り返し隙間なく並ぶ形なので、ある条件を満たす三角形が使われます。その条件は、

条件①内角が360゚の約数であること。
さらにその約数は、360度から割った時に偶数となることです。
条件②360÷内角=偶数であること。
です。
これらの条件を満たし、且つ
条件③三角形を描ける角度であること。
を満たすのは、
30,45,60,90の4つの角度だけです。この4つの角度から作れる三角形は3つあるんですが、中心部にのぞき穴をあけたい。また円筒形にして回したい、ということから3枚の鏡を正三角形に合わせる形が万華鏡では使われます。(芸術作品などの特殊なケースをのぞき、この形)

なお、条件の①②を満たすことから、六角形、八角形も理論上できるかに見えますが、六角形以上は万華鏡の法則自体が成り立たなくなる(無限の繰り返しが起こらなくなる)ので不可です。

言っておられるのは、条件②のところの偶数のことではないのでしょうか(五角形がダメな理由となる)。

詩に話を戻すと、
詩中の、奇数の合わせ鏡が重ならないこと自体は間違ってはないし、万華鏡が多重の合わせ鏡であることにはちがいないので、ある意味、詩中は明瞭には書いていないのでセーフに思います。注釈だけはずしてもらえばいいと思います。(注釈ではっきり書こうとした時に、語弊が出てるだけなので。)
注釈さえなければ、詩はそれなりにちゃんと読めます。「万華鏡」メインの話ではなく、「合わせ鏡」メインの話として読めます(万華鏡は脇役として)。


●ゆづはさん「霧の朝」  

金木犀の香りは、お父さんが亡くなった季節を思い出す香りでもあるという、とても想いの深い詩だと思います。また、この詩、とてもしっかりと書いてくれていて、そこは評価したいと思います。

ただこの詩は、構成上、ちょっと考えてほしいところがあります。時制(現在と過去)が激しく出入りすることです。

1~2連(現在)、3連(過去)、4連(現在)、5連と6連は、どちらも1~2行目のみ(過去)で、3行目以降が(現在)のハーフです。この出入りの激しさにより、映像がすごく分散してしまう。読んでてワールドが定まらないのです。なので、時制の整理をされた方がいい。

提案としては、現在→過去→現在、の3区切りに集約した方がいいと考えます。
1~2連は現在ですが、3連アタマで、「あの日 私は」とあるので、ここをスタートに、過去部分は集約してしまう。そして最後はまた現在に戻るというパターンです。

それと、初連で、「六度目」という言葉があり、これは「何からの六度目なのだろう?」という謎かけを、最初に読み手に投げかけていることにもなっているので、その謎かけの答えであるところの「父」という言葉は、もう少しくっきりさせた方がいいです。

以上の理由で、3連以降は、こんな感じにしてみる、というのが提案です。

あの朝 私は
深い霧の底で息をひそめていた

掠れた父の声が
病室の闇に溶けて
世界は輪郭を失い
庭の木々も 鳥の声も
ただ白い静寂に包まれていた

秋の気配がまた肩を撫でると
遠く どこかで歌声が響く

それは 父の声なのだが
記憶の残響と混ざり合い
もうはっきりと思い出せない

ただ 傍らにあった温もりは失せ
空だけが
いつもの場所で
違う色を滲ませている


この構成を参考に、ご自分で一考してみて下さい。

内容は亡き父を想う、とてもいい詩なんですけどね。ちょっと惜しい。
秀作半歩前とします。

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