母の惑星 荒木章太郎
母が萎縮していく
母の惑星が萎縮していた
こちらから観ると
母は時空を超えていた
電話の向こうで 時が外れている
——天動説はどんどん複雑化して
何とか現状維持を続けてきた
そこに地動説が現れ
均衡は破られた——
この惑星のシステムは
そうやって進化する
旧態依然としたものは
異質を排除しながら
新しさを取り込み
均衡を模索して生き長らえた
どこかの星の保守政党のように
母は天動説に向かって
成長しているようにもみえた
私たち兄弟姉妹は
これから赤く膨張していく
母の惑星と運命を共にして
まるでアインシュタインの
一般相対性理論のように
運命が重力となり
時空を歪ませていく
我々は母の異世界を取り込み
生き延びようとするのか
家族という境界を越えて
新しい形に変化するのか
我々は母の惑星を
アルツハイマーと呼んだ
母の脳は萎縮していく
こちら側から観れば
忘却の彼方へ軌道を外れていく
それでも我々は
母の惑星に降り立ち
祈りのように 呼吸を合わせている