金塊 aristotles200
目の前に金塊がある
今なら、自分のものに出来る
薄壁の向こうには
それを知る者がいる
その家を窺う者たちがいる
金塊は、誰かの手に移った瞬間から
誰のものではない
一同、スタートの合図を待っている
この集団を知る者たちがいる
誰かの手に移った金塊を狙うべく
着々と、この家のある村を包囲する
一人漏らさず捕まえてしまえ
この村がある街には
金塊とそれを狙う者たち、この全てを
知る者がいる
村の、全てに人を潜り込ませ
虎視眈々と金塊を狙う
街の、金塊を知る者の企みは
市を束ねる者が知っていて
市の次は県、県の次は府
府の次は、国の王様も知っていて
王様の次には、隣国の王様も狙っている
金塊を目の前にしている男は
知っている
これを奪った瞬間
自分がどうなるかを
故に、動けない
どうすれば良いのか、見当もつかない
それを窺う者たちも
見張られていることに気づいている
更に、見張っている者たちも
狙われていることを理解している
誰も動けない
無造作に机に置かれた金塊は
自分の立場を知っている
ここ百年、代々跡を継いだ者たちがいて
狙われ続けているが
誰も、金塊に触れた者はいない
金塊は、実は
金塊に見えるハリボテであることを
押し黙っている
何故なら、触れられない限り
永遠に、金塊であり続けられるからだ
最初に、ハリボテの金塊を置いた者がいる
ちょっとしたイタズラ
今や
バレたら、とんでもないことになる
故に、目の前の金塊を触ることはなく
家訓として、代々受け継がれている
夜は無人になっている
金塊は疲れて眠り込む
実は、全員ハリボテだと知っている
今さら、金塊ではなかったでは
全員、困る
金塊は、存在し続けなければならない
ある日ハリボテは二つに割れてしまう
その日、皆が見て見ない振りをする
その夜、全員が集まり修理にかかる
ハリボテは金塊でなければならない
幾度の割れと修理を経て
見かけは
ハリボテ以外、何ものにも見えない
それでも、ここには金塊があり続ける
第三者の、誰かが
ツギハギだらけのハリボテを見て
ゴミと思い
道に放り出す
ハリボテは、人に踏まれ雨に濡れた
金塊は消えてしまった
仕方ない、人間のすることだ
すみやかに、翌朝には
かねてから用意しておいたハリボテが
最初の家に置かれる
この手の類いとは、そういうものだ