書道 静間安夫
さぁ、
初冬の朝まだき
身の引き締まる空気の中、
畳の上に正座して
まっさらな気持ちで始めよう
まずは
心を込めて
ていねいに墨をすろう
同じ力、同じ速度で
硯の上に円を描くつもりで
繰返して、根気よく
墨をすっているうちに
やがて、穏やかな朝日が差しはじめ
きみの心のスクリーンに
書きたい「ことば」が浮かんでくる―
くっきりと鮮明に
そうしたら
―いや、まだ慌ててはいけない
墨は十分にできただろうか?
墨の色は明るすぎないか?
それとも暗すぎはしないか?―
よく確認したら
いよいよ
真っ白な大きな半紙に
向かい合おう
大きく深呼吸してから
筆の根元まで
しっかりと墨を浸け
きみの書きたい「ことば」を
一息に書こう
でも、決して
力を入れすぎないように―
そして
一文字、一文字の間の
気持ちのつながりを大切にしよう
どうだろう
満足のいく出来栄えだろうか?
そうでなければ
納得がいくまで
書き直してみたらいい
きみが選んだ
「木枯らし」という文字に
いのちが
こもるようになるまで
昨日の夕方から
ついさっき
明け方まで吹きすさび
冬の到来を告げ知らせた
木枯らしの
荒々しさがまるごと
伝わるように
そして木枯らしが、
ごうごうと
不吉な音を
たてればたてるほど
却って
きみの心の中に
かき立てられた意志までも―
木枯らしに立ち向かおうとする
その意志までも
伝わるようになるまで
書き直してみたらいい