巨人 相野零次
ある日あるところに
とてもやさしい巨人がいたんだ
とっても大きな手と足と心を持っていて
だれかがこまっていればすぐに助けてくれた
巨人には目も鼻も口もなかったから
どういう感情を持っているのかわからなかったけど
みんなはきっとやさしい笑みを隠しているって
信じて疑わなかった
そんな巨人をある日殺しにやってきた人間がいた
この国は戦争をしていて
敵対国からやってきたヒットマンだった
巨人は誰かを助けることしか知らなかったから
自分が死ぬことがその人を助けることだと思って
大きな心を大きな手で握りつぶしてしまった
殺気立っていたヒットマンは驚いて
しばらくしてからありがとうと涙しながら言った
悲しんだのはヒットマンだけじゃない
みんな悲しんだ
幼いこどもから年老いた老婆までみんな涙を流した
そのとき空から声が聴こえた
みんな悲しまないで
これで戦争が終わる
みんな抵抗しないで
白旗をあげて降伏して
それでもだれも悲しまないように
僕がなんとかするから
それは声なき声として
全員の耳に届いた
この国と敵対国にさえも
みなは驚き
そして感謝した
両手をあわせ感謝の祈りを捧げた
雨が降ってきた
それは巨人を失くした
みんなの哀しみと
明日へと続く希望の涙だった