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スレッドNo.6450

感想と評 10/31~11/3 ご投稿分 三浦志郎 11/9

1 佐々木礫さん「密やかな舞踏のあと」 10/31

まず「場」の確認をしたいと思います。机と椅子が全て片付けられた教室。グランドピアノがある。天井にはシャンデリア(比喩的修辞か?)。この詩の主人公にして語り手は明らかにこの部屋にいます。次に「彼女」。これは冒頭の「ため息」からすると、男と一緒にいるようにも取れるのですが、後段で「彼女もあの部屋にいるのかもしれない」とあるので、別のところにいるのが正解でしょう。(終句もそれを裏付ける)。ならば、冒頭のため息の件は、あくまで幻覚的表現かもしれない。このあたり少し迷うんです。ピアノの傍に靴が片方だけ残されているのは、なかなかシュールな設定で面白いです。そういえば、この詩は全くの現実ではないでしょう。現実と幻想を浅く行き来する、そこに持ち味ありと見ます。ただ、それ以降なんですが、いろんな事物や現象があまり脈絡なく各種出て来るので、拡散気味、混乱気味が少し気になります。あと、この主人公は学生と思われますが、冒頭の「仕事」と最後の「学生鞄」は検討が必要かも?佳作一歩前で。前作「フリータ 美女の遠景を描く」と同傾向のフィーリングと言えます。


2 aristotles200さん 「金塊」 10/31

上手いですね(理由は後述)。2カ所ほど気になった点があったので、先にこれをやっつけちゃいましょう。

① 5連目「県~府~国の王様~隣国の王様」と来ると、人はたとえば「エッ!?奈良県? 京都府、大阪府?王様って?」となっても困るわけです。ここは「汎用性・普遍性・あいまい・ぼかし」を使って要は「金塊にまつわる企みは、人を、土地を、同心円状に巻き込みながら伝播される」といったような主旨を上手く詩的に表現したいです。

② 後半「夜は無人になっている」の連の「全員、困る」は、ちょっとベタで俗的です。ちょっと困る(笑)。もうワンランク、表現を上げたいです。たとえば「全員、立つ瀬がない 面子を失う」みたいなフィーリングでしょうか?(「イタズラ」「バレたら」も検討したい?)さほど難しいことではないでしょう。

冒頭の感想の理由はここから。僕はこの詩を充分支持できます。金塊とか埋蔵金とか、興味そそられますよね。僕の把握では、この詩は、そういった人間の財貨に対する欲望や執念について言っている。さらには、金塊の擬人化という優れたアイデアを通じて語られること。たとえば、真実とは何か?真実めがけて、ぎりぎりまで工作される偽りとは?あるいは真贋とは?隠蔽、猜疑心、闘争心。そんなことに血道を上げる人間の性や業とは?―たとえば、そういった事を読み取っていました。「論」で書くより、エピソード化したのは素晴らしいです。指摘ありと言えども佳作です。些末な指摘よりも、詩の深い根幹を取ります。


3 人と庸さん 「足跡」 10/31

冒頭佳作で代表作でしょう。aristotles200さんの賛辞がありました。僕も同感です。そして、お二人が讃え合う姿は大変美しかったです。僕はこんな風に思っています。ウチが取ってる新聞に「あるきだす言葉たち」という定期文芸欄がありますが、現代詩の先鋒が多い。そこに掲載されるにふさわしい詩だと思っています。

若干の風景が示唆されます。冒頭2行、「また光った」から「天に還る」まで。その経過の中で思うことは、自己の心の地図を広げて、今までの道程、そして現在、やがて未来まで検証する。そんな行為を「足跡」と僕は見ています。雨と水のイメージの中での足跡というのは現代詩的なパラドックス効果を充分に感じます。この詩は“考える”よりもむしろ“感じる”ことを求めているように思える。
感じる、から解釈の糸口を掴む。そんな兆しが設定されていると感じます。「あるきだす言葉たち」が、すなわち「足跡」になります。


4 上原有栖さん 「雪日の抒情」 11/1

冬の朝、雪。しかも、かなりしっかり降ったようです。空、太陽、雲の様子も描かれ、穏やかでプレーンな風景が生まれています。
唯一動く点景は五歳の息子さん。これはひとつの幸せのひとときかもしれません。しかし詩は幸せの影の部分に至ります。それが「幼くして亡くなったもう一人の我が子」です。詩の後半に伏線のように現れます。それ以降、この一見平凡そうな詩は表情を変えてゆきます。父なる作者・上原さんはしばし物思いに耽ります。やがて息子さんのひと言「向こうの丘の上にちっちゃな男の子がいたよ」。
その真偽を問うことは不粋というものでしょう。―「「七つ前は神の内」。亡き息子さんが神となって現れたのでしょう。この詩の主人公は息子さんでしょうか?いや、そうではないでしょう。彼は単に案内役。真の主役は「ちっちゃな男の子」。さらに僕は想像します。
文中「気がつくとたくさんの小さな足跡が踏みしめられていた」―その足跡は生ける息子さんが実際につけた足跡よりも多かったのではないかーと。 佳作です。

アフターアワーズ。
「七つ前は神の内」。良い言葉です。柳田國男の民俗学が発祥だそうですね。神の庇護にあると思いたい。


5 相野零次さん 「雪」 11/2

前回に引き続き、今回も赤子の「僕」の独白詩です。前回は生まれたばかりの自己と世界との関係性、その始まりが描かれました。
それもひと段落して、今回は世界の諸相に話が及ぶようです。
いつもながらの想像力は凄いものがあります。道理・荒唐無稽取り混ぜてマシンガンのようにフレーズが続きます。これ、話が各方面に飛び交うので、書くほうも忙しいですが、読むほうも相当に忙しい。全部読み終えて(何が残る?何が書かれていた?)と自問してみると、(はて?)と思う部分が少なくないのです。「地球を巨人が回す」「おとぎ話=戦争に行って帰らなかった誰か」。このあたりは話として面白いですし詩的であります。「朝のバトンリレー」は谷川俊太郎をイメージでき、好感です。これらの良い点が、この詩の代表として、しょって立てるか?というと、ちょっと疑問が残るのです。前回作には明らかに一本芯が通っていました。従って最上級の評価をしました。そのイメージが強烈にあったので、今回の拡散気味はちょっと残念で、佳作一歩前で。


6 荒木章太郎さん 「一人になるのが怖いだけです」 11/2

やってくれますなあ(笑)。これ、何の詩でしょうかねえ? 3連のトーンを読むと、そういった方面、組織が苦手、嫌い、恐い、弱い……!そんな思いが各連に渡って綴られています。で、ちょっと注目しておきたいのは、以下の如き仮説です。
「君~相手」とあるから、ある方面、ある誰かに気を使って入ってみて少しは頑張ってみたけど、やっぱ痩せ我慢。「もう~~ダメ!耐えらんない! じゃ、さいなら~~!」
当然ながら、国家安全保障・災害救援等は気高い命題であり、気高い組織ではありますが、向き不向きは如何ともし難いものがあります。ごめんなさい。こんな風にしかわかりませんでした。
隠し味として、わずかにユーモアも感じます。評価は割愛させてください。解釈間違っているのが怖いだけです。

アフターアワーズ。
海上自衛隊の音楽隊の人々と一時期、付き合いがありました。彼らはプロだから上手いんですが、
やっぱ、ちょっと恐いところはあって、違う気がして、その後は疎遠になってしまいました。


7 トキ・ケッコウさん 「食卓バリケード」 11/3

凄く奇抜なタイトルで、それだけで、もう読みたくなりますね。 ところで、この詩を読んで思い出した絵本をリストアップしてみます。
〇 「もうじきたべられるぼく」
〇 「いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日
〇 「しんでくれた」

最後のは谷川俊太郎の詩が載っています。
うし
しんでくれた
そいではんばーぐになった
ありがとう うし

この詩はやや込み入ったニュアンスや屈折を感じたので、よくはわからなかったのですが、
僕が受け取った大意を絵本でリストアップするとこんな感じになります。タイトルを見ただけで、どういった事情が横たわっているか、おわかりになると思います。上記3冊は子供向けだからー、
「ネ、たべられちゃうの。かわいそうでしょ?でもたべなきゃ、わたしたちにんげんはいきてゆけないの。だから、いただきますのことばといっしょに、ありがとうのきもちをもちましょうね」
―そんな主旨だと思います。いっぽう、こちらの詩は、そういった事は書かずとも、もちろん踏まえた上で、そこはそれ、大人としての複雑を表現しています。今までの自分の経験も踏まえて、その意義を考えています。多少、*忸怩たる思いもあるのかもしれません。構成として独白とナレーションを分けたのは趣き深いです。独白のほうはあっけらかんとした語りの中に深いものを覗かせています。ご自分が料理しているので、ことさら思ったことを詩としたのでしょう。 甘め佳作を。

*忸怩たる思い……自分の行動や言動に深く恥じ入る気持ち。


8 静間安夫さん 「書道」 11/3

あまり使わなくなった言葉に「清新の気」というのがありますが、初連の気分にぴったりです。今こそ、そのように形容致しましょう。
少し注目しておきたいのは、墨をする行為です。
僕は小学生の頃、お習字教室に通っていたので、うっすら憶えていますが、今から思うと、心の準備、一種の精神統一の要素もあったかもしれません。もちろん、書くほうがはるかに大事なんですが。6、7連が、いわゆるメインパフォーマンスなんですが、大いに注目しておきたいのは、それ以降に多くの紙面を費やしている点です。静間さんの主張はこちらにあるかのようです。すなわち、心を込めること。対象の性質を生き生きと文字に伝えること。そのためには文中「書き直してみたらいい」としています。「~なるまで」「~伝わるように」。このあたり、やや厳格で「研磨」といった言葉も浮かんで来ます。「〇〇道」とする所以かもしれません。習い事とはそういったものでしょう。
そういえば、先生に朱色の墨で直された記憶が蘇りました。気持ちや対象を伝えるという意味では詩と通じる部分もありそうです。
「詩道」!?詩には「道」がつかなくて、よかった、よかった!(笑)。
ちょっと面白いモチーフでした。詩技術論的には、目新しいものは特にないので、佳作半歩前で願います。


9 TICOさん 「はじまり」 11/3  全く久し振りですので、評価のほうは割愛させて頂きます。

ええ、もちろん憶えております。こういうかたが再び来られるところが、このサイトのえも言えぬ良さだと思っております。

久し振りのわりには、衝撃で可哀そうな詩なので、ちょっとびっくりです。2連と5連だけで充分です。
ちょっと多くは語れません。相手への気づかいも度を越すと、このように悲惨なものになる。そんな気がしています。


10 多年音さん 「寒風」 11/3

「安心しろ
お前はポケットで守ってやる」
―いや、気に入りました! ポケットに手を突っ込むのをこのように書く人に初めて出会ったような気がします。この乱暴だが、溢れるような優しさはどうでしょう。久々にフレーズ大賞登場と行きましょうか!木々と三角コーンの半擬人化もこの詩にとって効果的。とりわけ三角コーンはけっこう街で見かけて印象的です。ついでに言うと「ごめんね/階段は危ないから手は出さなきゃ」。このあたりのフレーズの呼吸感や考え方はこのかたの持ち味かもしれない。さらに言うと、その気づかいは巨大なビルにまで及ぶのです。終連は自販機でホットコーヒーなど買ったのでしょうか。
ここでリフレッシュしての結び。明日へのメッセージ。前向き全開続行中。佳作一歩前なれどフレーズ大賞付き!


11 晶子さん 「祝辞」 11/3

晶子さんのいつもの、優しさ寄りのニュアンスを感じています。「成長おめでとう」は、使用例として言いそうで、あんまり言わないですよね。そこが面白い。珍しく本作は「僕」つまり男性に仮託して書かれている。イメージとして、嫁ぎゆく娘を思う父親が浮かびます。そうですね。男は幾つになっても自分を「僕」と言いますね。これで合ってます。「贈る言葉」という表現がありますが、それに近いものを感じました。そういった言葉に複雑さは禁物。スッと伝わるものがいい。これでいい。しかも、この「僕」は言葉のパワーを信じているのがわかります。言葉を信じる父親が娘の将来までも信じる、そんな詩を思っていました。これに近いことが最近あって、父親の気持ちになって書かれた事情も推察可能なのです。甘め佳作を。


評のおわりに。

昨今の感覚で言うと、晶子さん、さらにはTICOさんのカムバックが目を惹きます。同時に、感覚の新しい人が増えました。評者ながら驚き憧れますね。そういった背景で、このサイトは常に更新され新鮮なものがあります。素晴らしいことです。 では、また。

編集・削除(編集済: 2025年11月09日 18:25)

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