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スレッドNo.6481

剣豪なりけり 喜太郎

物思いがついた頃から
我が手には常に刀が握られていた気がする
日が昇り 日が沈みても
我が掌が赤く染まれども
刀を振り高みを目指し続けていた

やがて世の中では多くの戦が始まり
我は呼ばれる様に戦に身を委ねた
まるで水を得た魚の様に鬼となり
切って切って切りまくった
いくつもの首と引き換えに
食い物も金も貰えたが
胸の内が満たされることは無かった

やがて世の中から戦は消えてゆき
平安な時へと流れたが
我が名を知る者が
名をあげようと挑んで来るが
断る理由など無く
一刀両断
名は知られ続け挑むものも増えたが
一刀両断

妻も娶らず 無論子も作らず刀と共に歩む人生なり
されど胸の内は満たされぬまま刹那の人生なり

幸とは何かと問われれば
必要のない思いだと答えるだろう
多くの命を切り捨てて来た我が道のり
歳も重ねてきたが死も地獄も怖いとは思わぬ

ただ死して我が名は残るのだろうか
ただの人斬りの鬼として残るのだろうか
僅かながら願うが叶うのなら
せめて『剣豪』としてこの命の幕を閉じたいものだ

秋風がススキの穂を揺らす夕映の中
年老いた侍が刀を手に屍となっていた
鞘から僅かに抜け出た刀は錆びていた

編集・削除(編集済: 2025年11月12日 12:07)

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