MENU
1,622,086

スレッドNo.6492

瞳のブルーライト  松本福広

瞳に吸い込まれて。
瞳みつめて。
瞳を見ないのはきっとキスする時だけ……

待ち合わせに向かう電車の中、ネット発信のライトな恋愛小説を読んでいた。瞳の描写が多くそんな感想をもった。
電車の中は適度に空いている。誰もが車窓越しの日差しを浴びながらシートに静かに座っている。
家族連れもいるけれど、座席から車窓を眺めて看板の字を読み上げるような子どもはいない。親から渡されたスマホのゲームに夢中だ。
周りの人もうつむき加減。ニュースサイトなどを見たりしているのかもしれない。職場の休憩所に似ている。

電車から降りれば、子どもも、性別も、年齢も関係なくうつむき加減に歩く。
周囲を見ず操作するスマホをいじる人もいる。
前を歩く人にぶつかるギリギリになり慌てて避ける。待っている私もうつむいている。
相手が来て手を振る。笑顔。チャットアプリで他愛ない話もするけど、久しぶりに会う気持ちになる。

SNSで投稿が流行った喫茶店に着き、座席に案内される私たち。おもむろに2人してスマホをいじり始める。料理と店内をSNSに投稿する。
それから……お互いへの愚痴。
一週間の操作時間が表示される。
私たちの顔を見合わせての時間はどのくらい?
それを教えてくれる機能はないみたい。


整体師の彼が話し始める。最近、腰痛の訴えの人が増えているらしい。それと同時にスマホ首の人も。
人間を重たい頭を支える首から臀部へ繋がる脊椎を守るためにも同じ姿勢を長時間維持するのもよくないらしい。そんな話をされた。
これは役立ちそうだとSNSに発信する。今日も頑張って魅力ある発信を心がける。誰かに見てもらいたくて。誰もが発信できるようになったからこそ、一定ペースの発信が必要なのだと私は発信のネタをアンテナを張る。

彼の愚痴が始まった。
整体師にとっては色んな人がいて話題を合わせるのも大変なのが悩みの一つでね。
色んなジャンルが分化していくから尚更だ。スマホで手軽にチェックできるけどさ。
彼も首をさすっていたことを私は知らない。積極的に首を痛める私たち。
知見は広くなるどころか狭くなっていく。


インスタントな情報の取捨選択
深めていくと同時に広がる世界を知らない。
先ほどの小説が頭によぎる。
瞳の奥に広がる世界
小さな瞳に、眼前を映す人間のレンズ
私は写っておらず
反応がなかった私ではなく
スマホをいじり始めた彼氏。
私たちすれ違っている。

誰かにぶつかりそうになって。

顔を見合わせた会話をしないで。

連絡ツールとして便利過ぎるから
休日に職場からの連絡に使われて。

電源がオフになることなく
切り替えられない画面と気持ち。
そんな常ならぬ努力を重ねて

首や眼精疲労を訴える。
そして
お互いにスマホをを見る時間を
伸ばしたがるように声だけ発信する。

だからと言って、やめられない。

誰もがうつむいた軸をもっている。

歪な背骨
、歪な構造

分かりつつも

誰もが、誰かに見てもらいたいから

刺激的な画面内の深みにはまっていく。

後日、彼氏と別れた。
お互いの言い分は
「自分が見られていないから」
「自分がいなくて、いい気がしたから」
ということだった。
やがて、彼の顔も消えていく。

編集・削除(編集済: 2025年11月15日 08:57)

ロケットBBS

Page Top