アフター・ライフ 上原有栖
スポットライト照らす舞台の中央で
姿勢を正して深々とお辞儀をした
見知った顔ばかりが並ぶ観客たちの
スタンディングオベーションは鳴り止まない
たった今 終幕のベルが響き渡り
人生の幕が降ろされた
重みのあるベルベット生地の緞帳が
天井から音も無くスルスルと滑り落ちてくる
此方(こちら)側と彼方(あちら)側に線が引かれ
各々が名残惜しむ姿が隠れてしまう
それでも耳には延々と続いている拍手の音と
よくやった そんな労いの言葉が聞こえていた
折り曲げた腰はそのままで
視線は床模様の木目を見つめている
ここまでの生き様は如何だったか
後悔や心残りは無かったか
顔を伏せたまま今までを振り返った
頭の中で途切れ途切れに流れる映像
これが走馬灯というものなのかもしれない
完璧では無かったかもしれない
けれども 満足のいく人生だった
もうすぐ退場の時間が迫っている
ずっと前に同じように去っていった顔なじみたち
彼らと同じところに行けるのだろうか
顔を上げて舞台袖へ歩を進めた
スポットライトが一つだけ照らす空間を
少女が舞台袖から見つめている
ステージに立つのはひとりの老人
全ての仕事を終えた主役は
床をきしませてこちらに向かって歩いてくる
彼女は手を差し出した
相手はその手を優しく受け取った
***暗転***
(さあ「次」の演目の準備に取り掛かりましょう)
*********
電球色の照明が部屋を照らしている
暫しの眠りについた舞台と観覧席
演目が終わった
観客は退場した
主役も去った
そして 誰もいなくなった
それぞれの人生の後にはきっと「次」がある
(カチッ)
どこかで照明のスイッチが消される音がした