しゅじんこう 相野零次
さあ、これからものがたりがはじまる
どんなものがたりかって?
さあ、それをこれからかんがえるところから
ものがたりがはじまる
しゅじんこうはどんな人?
おとこのこ? おんなのこ?
どんなしごとをしているのかな?
とりあえずそこにいた男は帽子売りだった
いろとりどりで形もさまざまな
帽子を売るのがその男の仕事で、
しかしその男はしゅじんこうではなかった
その帽子売りの男の命を狙う男がいた
一流の殺し屋で吹き矢を使うのが殺しのやり方だった。
しかしその男もしゅじんこうではなかった。
しゅじんこうに恋をする女がいた。
その女はしゅじんこうのことを何一つ知らなかった。
なのになぜしゅじんこうに恋をしているのか?
「わからないわ、だってヒロインは私だもの」
唐突にヒロインがあらわれたが、
やはりしゅじんこうはどこにもいなかった。
そしてある日しゅじんこうは殺された
あの殺し屋の吹き矢によって殺されたのであった。
しゅじんこうは殺されてもしゅじんこうだった。
しゅじんこうが殺されたので、この物語は終る。
ついに最後までしゅじんこうが何者かわからなかった。
それでも物語は終った。皮肉にも。