白く濁った眼球 荒木章太郎
白く濁った私の眼球は
もう手の施しようがない
これまで事実を見ようとしなかった報いだ
手術で澄みわたらせることはできる
だが人工的に手を加えることが
どうにも気に入らない
運命を受け入れるために
ゆっくりと自然発酵させることにした
この深みを生かすことにした
やがて思い込みが
さらに視界を濁らせていく
注意は必要だ
遠くなった耳を呼び寄せ
そっと澄ませる
聞こえないところを
また想像で補ってしまうから
ここでも注意が必要だ
海に波を聞きに行きたい
ものがまだ見えるうちに
海亀の産卵を見に行きたい
海を――うみを――観に行くのだ
私の知らない痛みと
哀しみをはらんだ喜びが
暗いうちに
ひっそりと執り行われる儀式
やがて、夜が明けて
生まれるものを前にして
濁りが、静かに退いていく
目の前が開けてゆく気配を感じる
私は
白内障の手術を受けることにした