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スレッドNo.6512

アインシュタインの羽根アリ  トキ・ケッコウ

ちいさな羽アリがテーブルいっぱいに落ちていた
8の字のからだに透明な羽を生やして網戸の目を潜り抜けてきたら
しい
シロアリではないことだけ確認するとなんだか気の毒になった
どういう種類のアリだろう
広げたティッシュの上に指でつまんで載せ数えた
みっつ、よっつ……。
あといくつだろうと曖昧になったところで
「それは違うよ」
指先が言ってきた
そうだった、オレを入れずに、5人、6人‥‥。

(神様が振ったサイコロの目数だけやってきたのだろう
  でもここはきみたちの生きていく場所じゃない)

マグカップのなかにも羽アリが入っていた
底に点々と落っこちてコーヒーの跡にからめ取られている
流しで洗って空になったところにあらためて水を注ぎ
カップのフチにくちびるを当て
排水溝の屑取りネットに引っかかった影に向かって数えた
ななつ、やっつ‥‥。
あといくつだろうと曖昧になったところで
「それでいいの?」
くちびるが訊いてきた
そうだった、オレを入れずに、9人、10人‥‥。

(神様が振ったサイコロの目数だけやってきたのだろう
  しかしここは餌を漁るところじゃない)

床に目を近づけると見渡すかぎりに落ちた羽アリだった
まだジリジリと動いているものもある
よほど盛大な結婚旅行だったのだろうし掃除機で吸うのは間違いだと
乾いた白いタオルをあてがって拭った
玄関を出てバサバサふるうとポロポロ小さな黒い点が落っこちた
屈みこんで数えた
にじゅう、さんじゅう、いやもうわからない。
すっかり諦めたところで
「また間違えてやがる」
あたまから声が響いた
そうだった、オレを入れずに、40人、50人‥…。

(神様が振ったサイコロの目数だけやってきたのだろう
  それにしてもいつまで数えればいい?)



神様はサイコロを振りたまわない  とは
アインシュタインが言ったことば
彼がどこにいるのかはわからない
だが羽アリたちは
彼らの誰も知らなかったいま  ここ に  あ  る

編集・削除(編集済: 2025年11月20日 17:16)

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