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スレッドNo.6516

珈琲豆  小林大鬼

仕事帰りにバスを降り
たまに立ち寄る
学園の森の珈琲店

硝子扉の奥を覗くと
小さな店内の厨房にいる
若き店主と目が合って
そこから会話が始まるのだ

営業は春から秋の週一二回
自分一人のためだけに
店主はいつも待っていた

濃い珈琲をブラックで
飲めるようになったのも
この店に出会ってからだった

店主の好きなジャズが流れる中
お気に入りの席に座り
硝子張りの窓の外を見ながら
あれやこれやとおしゃべりする

今日は何にしますかと言いながら
店主はその日のおすすめを勧めて来る

店主が淹れる珈琲は香り高く
黒く深みがある味わい

今日のは美味いですよ
これが店主の口癖だった

木目調の店内には
小さな木のテーブルと
椅子が並ぶだけで
余計なものは一切ない

今年に入って店主から
この夏で店を閉めると告げられて
初めて深煎りの珈琲豆を買った

店のシャッターが降りてから
その道はもう通らない
秋風が寂しく吹いていた

時々思い出したように
封を開けて珈琲豆を挽き
お湯を沸かして珈琲を淹れる

店主に習った珈琲の手順を
いつも思い出しながら

いつも優しく淹れていた
店主の顔を思い出しながら

冷蔵庫に眠ったままの珈琲豆
忘れられない珈琲店の思い出とともに

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