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スレッドNo.6529

絵のへたな絵描き  人と庸

ふいに扉が開いて
誰かが入ってきた(出ていった?)
どこかで窓を閉める音がする
隣の家かもしれないが
数時間後の私が
二階の窓を閉めにいったのかもしれない
だから扉が開いたとき
誰の姿も見えなかったのだ
(実体はここにあるから)

数時間前の私は
窓をせっせと開けている
(でも実体はここにある)


数十年前の私が開けた窓の外に 実体の私は景色を描き続けてきた もうずっと ずっと でもいつしか景色は 絵筆の穂先から離れ 自分勝手に描き出すようになった 
それは描きたいもののようで 描きたいものとはまったくちがう よく知っているようで 実はまったく知らないもの 
或るとき描かれたのは 通っていた小学校 でも ありえない位置にある階段やら 別の建物に通ずる隠し扉やら 見覚えのない中庭やらがあって しょっちゅう迷子にさせられる
私は実体だから そういうものを描き直そうと なんとか描き直そうと試みるが むかし住んでいた家やら 町やら 中学校やら道場までもが 波のように高く舞い上がり 私を覆い尽くそうとする でもその雫のひとつひとつは 真珠のように煌めいているのだ

数十年後の私は窓を閉めようと その前に立っている しばし 外の景色に見入っているようだ 実体の私は描き直せたのか それとも 何度もくりかえし見る夢のように 数十年後の私も その景色の中で迷子になっているのかもしれない


「どうせ雨が降るのに」
数時間後の私が
数時間前の私にぼやきながら窓を閉める
でも 雨が降るまでの少しの間でも
窓を開けていたいというのは
すべての「私」の共通の願い
そして 窓の外に景色を描くのが
実体である私の役目だ

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