ある物語 晶子
綺麗な玉がありました
曇りもなく傷もなく
ガラス玉のように世界を映しました
ある日
女の人に出会いました
彼女は素敵だったので
彼女を映す玉はとても嬉しくて
ずっとそばにいたかったのです
でも一緒にいる男の人とよく喧嘩して
彼女は時に酷い言葉を玉に吐き
傷付けて
その後ごめんねと泣きました
玉は傷付いた自分が嫌でした
彼女の涙が沁みるのが嫌でした
玉は映すことをやめて
ただ転がっていくことにしました
小石で擦り傷が増えていっても
気が付かないふりをしました
そうしているうちに
曇って本当に映せなくなっていきました
転がり転がりしてるうちに
何かにぶつかって
痛いと聞こえました
そっとまだ曇っていないところから覗いたら
自分と同じような玉がいっぱいで
近づいたり
ぶつかったり
離れたり
なかには割れてしまったものもいました
それがなんだか悲しくて
玉はいっぱい泣きました
なんでこんなに悲しくて
なんでこんなに辛いのか
お日様に聞いてもわからない
雨に聞いてもわからない
泣いて黙って
呻いて笑って
そんな月日が流れたら
綺麗な玉がありました
傷付いたこと一つ一つが
カットガラスのそのように
無垢ではないけど
純粋ではないけど
キラキラキラと輝いた
これはあなたの物語
私の愛しい玉のお話